在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/11
在宅で本人の意向を尊重し看取りにつながった膀胱癌・胃癌併存の高齢男性の事例
基本情報
年齢・性別:87歳・男性
居住地:名古屋市北区
家族構成:妻と同居。長男(名古屋市西区在住)、長女(福岡県在住)
保険・制度:後期高齢者医療制度(2割負担)、介護保険未申請(1割負担予定)
※医療費・家賃負担が大きく、制度利用には心理的・実質的ハードルあり
保険・福祉情報
後期高齢者医療制度(2割負担)
介護保険:未申請(申請予定・1割負担想定)
診断名
・膀胱癌
・胃癌(内視鏡治療後)
・右肺上葉小結節(経過観察)
・終末期所見:癌性胸水、肝転移、門脈浸潤、腹膜播種、リンパ節転移、黄疸、下肢浮腫
導入の背景
本人は膀胱癌・胃癌・肺結節など複数の悪性疾患を抱えており、食欲低下・気分不良・体重減少が徐々に進行していた。画像検査により病状悪化が確認され、治療方針は緩和ケア中心へ移行することが妥当と判断された。
妻が地域のケアマネジャー向け相談会に参加したことをきっかけに、医療・福祉職との情報連携が進み、訪問診療につながった。家族は医療制度や費用面に不安を抱えていたが、丁寧な説明と支援調整により在宅療養の受け入れ態勢が整い、訪問診療導入に至った。
介入内容と経過
初回訪問診療は長男夫婦同席のもとで実施。本人は「家族と過ごしながら苦痛なく最期を迎えたい」という明確な希望を示した。
在宅では以下を中心に支援を実施した。
・疼痛コントロールの強化
・病状と見通しに関する丁寧な説明
・理解が難しい妻へ繰り返し情報提供
・症状変化に応じた訪問看護との連携
状態悪化に伴う症状(痛み・浮腫・食思不振など)は段階的に進行したが、家族と医療者の連携により不安軽減を図りながら看取り期の支援を行った。
最終的には、ご家族に見守られながら、自宅で穏やかに最期を迎えることができた。
医療対応の詳細
主病:膀胱癌、胃癌、肺結節
終末期合併所見:癌性胸水、肝転移、腹膜播種、門脈浸潤、リンパ節転移、黄疸、浮腫
対応方針:積極治療は行わず緩和ケアに移行
中心対応:疼痛管理、苦痛緩和、家族支援、予後説明
支援のポイント
● 本人の意思の尊重
「自宅で過ごしたい」という希望を最優先に支援方針を設定。
● 家族への心理的支援
特に理解が難しい妻に対しては、繰り返し丁寧に説明し、安心感を高めた。
● 制度利用への伴走
介護保険申請の準備、医療制度の説明、費用面の不安軽減を実施。
● 多職種による短期集中支援
ケアマネジャー、相談員、訪問看護師、医師で密な連携。
限られた期間ながら、切れ目なく在宅療養を支えた。
考察
本事例は、経済的負担や家族理解に課題を抱えながらも、本人の希望に基づく在宅看取りを実現できたケースである。
終末期の在宅医療では以下が重要となる。
・本人の価値観と意思を軸に方針を決めること
・家族の心理的ケア
・制度活用と経済面の調整
・多職種による迅速かつ柔軟な支援
医療・制度・家族背景の三つを調整しながら支援することが、在宅看取り成功の鍵であると再確認される事例であった。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科、その他
・病態・症状:がん、認知症(軽度)、その他
・世帯構成:夫婦のみ