在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/10
独居高齢女性に対する訪問診療導入と終末期移行を支えた事例
要点サマリー
慢性腎疾患と視覚障害を背景に通院困難となり訪問診療を導入。在宅での生活安定期を経て、摂食低下を契機に入院へ切り替え、過度な延命を行わず穏やかな最期を迎えた。本人の尊厳を軸に、家族と連携しながら柔軟に在宅・入院を選択した事例である。
基本情報
年齢・性別:93歳・女性
居住地:名古屋市東区
世帯:独居
キーパーソン:長女(名古屋市北区在住)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護2(1割負担)
福祉給付金:あり
診断名
認知症
慢性腎疾患
低ナトリウム血症
帯状疱疹後神経痛
誤嚥性肺炎(既往)
骨粗鬆症
導入の背景
慢性腎疾患による入院歴があり、両眼先天性弱視のため視覚的支援を要する生活状況であった。難聴はなく会話は可能であったが、加齢とともにADLが低下し、外来通院が困難となった。独居生活の継続を希望され、在宅療養を支える目的で訪問診療が導入された。
介入内容と経過
訪問診療導入後は会話や生活リズムも保たれ、自宅での生活は比較的安定していた。
経過中、経口摂取および水分摂取量が急激に低下し、緊急往診を実施。キーパーソンである長女と協議のうえ、在宅療養の限界と判断し、入院加療へ切り替えた。
入院後は点滴等の支持療法を継続したが回復には至らず、穏やかな経過で最期を迎えられた。
医療対応の詳細
訪問診療期間中、特別な侵襲的医療処置は実施せず、体調観察および生活支援中心とした医療介入を行った。
入院後は経口摂取不能に対する点滴管理などの支持療法を実施した。
支援のポイント
通院困難に対して早期に訪問診療を導入し、自宅療養を可能とした点
状態変化の局面でキーパーソンと丁寧に意向確認を行い、判断を共有できた点
在宅から入院への移行を過度な混乱なく実現し、医療連携を円滑に行えた点
延命を目的としない尊厳重視のケア方針を一貫して維持できた点
考察
本症例は、訪問診療が「在宅療養の維持」だけでなく、「終末期に向けた柔軟な医療選択を支える基盤」として機能した事例である。在宅療養の継続可否を固定的に捉えるのではなく、状態の変化に応じて入院加療へと滑らかに移行できた点は、本人の尊厳保持と家族の安心の双方に寄与した。
在宅医療と病院医療がシームレスに連携し、家族との合意形成を丁寧に重ねることが、最期まで「納得できる医療」を実現する上で極めて重要である。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科、その他
病態・症状:認知症、心不全、その他
世帯構成:独居