在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/10
慢性心不全・COPD・褥瘡を合併した高齢独居世帯支援の事例
要点サマリー
近医通院中であったが、ADL低下と認知機能低下により在宅管理が困難となり訪問診療を導入。褥瘡治療と多職種連携により迅速に介入したが、感染症により入院転帰となった。早期対応により本人・家族の安心につながった症例。
基本情報
利用者:90歳 男性
居住地:名古屋市
要介護3
慢性心不全、COPD、褥瘡、軽度認知症
保険・福祉情報
後期高齢者医療
介護保険:要介護3
診断名
・慢性心不全
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・褥瘡
・軽度認知症
導入の背景
近医通院を継続していたが、高齢による下肢筋力低下、腰痛、認知機能低下により自発的な活動が減少し、臥床時間が長くなっていた。その結果、踵部・右腰部などに褥瘡を形成。かかりつけ医で外用治療は行われていたが専門的管理が難しく、訪問看護経由で褥瘡治療の相談があり訪問診療導入となった。妻も当院の訪問診療を受けていたことから、近隣に住む娘より包括的な支援を求められた。
介入内容と経過
初診時に褥瘡評価を実施。
・右大転子部:Stage Ⅲ、黄緑色肉芽あり、被覆材対応
・右外果部:浅い褥瘡、肉芽あり
・右アキレス腱~踵部:浅い褥瘡、外用・ガーゼ保護実施
・左踵部褥瘡:軽快
その後、踵部・外果部の改善を認めたが、左足趾に水疱を伴う新規褥瘡が出現。下肢血流障害も背景にあり治癒遷延の懸念があった。将来的に施設入所の検討も行われていたが、自宅で転倒し救急搬送、尿路感染症疑いで入院。院内検査でMRSAを検出し治療継続中に状態が悪化し逝去された。
医療対応の詳細
・褥瘡部位ごとの創部評価に基づき被覆材および外用療法を選択
・洗浄・感染対策を含めた訪問看護との連携処置
・全身状態のモニタリングおよび感染兆候の早期確認
・家族への状態説明と今後の療養方針の共有
支援のポイント
・訪問看護からの相談に対し、翌日初診対応という迅速な介入体制
・専門的褥瘡管理による評価・治療開始
・同居家族および近隣家族との密な情報共有
・将来的な施設入所を含めた選択肢提示
考察
本症例では、急速に進行したADL低下と褥瘡形成に対し早期介入が可能であったことで、短期間ながら本人・家族に安心を提供できた。高齢・多疾患併存例では、症状進行が速く、在宅支援開始後早期に急変する可能性が高い。訪問看護との連携により迅速な評価と対応ができた点は、在宅医療の重要な意義である。
付記情報
・診療科:内科、皮膚科、緩和ケア科、その他
・病態・症状:心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、認知症、その他
・世帯構成:夫婦のみ