在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/10
下肢壊疽に対する意思決定支援と在宅介入—切断回避を希望された末に治療方針が転換した一例
要点サマリー
ASOによる左足壊疽・骨髄炎で、本人は当初切断術を強く拒否し在宅療養を希望。医学的説明を重ねながら意思決定を支援し、疼痛増悪を契機に本人が治療を受容。左下腿切断術後は良好に経過し、在宅フォローののち訪問診療を終結した症例。
基本情報
73歳 男性
居住地:名古屋市内
要介護5
保険・福祉情報
公的医療保険利用
介護保険適用(要介護5)
診断名
閉塞性動脈硬化症(ASO)
左足壊疽
踵骨骨髄炎
導入の背景
右下肢は既に切断既往があり、左下肢についても重症虚血および潰瘍・壊疽・骨髄炎を合併。大学病院にて血管内治療を受けるも改善乏しく、切断術を提案されたが、本人は一貫して入院や積極的治療を拒否。透析治療中に意識レベルや発言の変化が見られる中、透析クリニックの支援員を通じて「自宅で過ごしたい」という本人希望に沿って訪問診療導入となった。
介入内容と経過
初回訪問時、左足は広範な壊死および踵骨露出がみられ、自宅で洗浄・ユーパスタ処置を実施。
医師より「切断を行わなければ感染は進行し、生命予後は短い可能性が高いこと」「抗菌薬のみでの根治は不可能であること」を、本人・家族双方に繰り返し説明。
本人には現状写真を用いて病態を共有し、治療選択の再検討を依頼。
その後、疼痛の増悪を契機に本人の意思が転換し、切断術を希望。緊急入院となり左膝下切断が施行された。
退院後の在宅訪問では、創部は清潔で感染徴候なく、一部創離解を認めたため洗浄およびゲンタシン軟膏処置を継続。
創部は順調に治癒し、疼痛訴えも消失。精神状態も安定し、手術施設からも経過良好との評価を得て、訪問診療は終結となった。
医療対応の詳細
自宅初期処置:洗浄・ユーパスタ外用
術後処置:洗浄・ゲンタシン軟膏塗布
疼痛評価と緩和ケア的対応
本人および家族への治療選択に関する意思決定支援
支援のポイント
・積極的治療を拒否する本人の意向を尊重しつつ、医学的リスクを正確に共有
・視覚資料を用い病態の理解を支援
・疼痛を入口とした「意思の変化」を適切に捉えて治療方針を転換
・在宅と急性期医療機関との迅速な連携
考察
在宅医療において「本人の希望」と「医療的妥当性」が乖離する場面は少なくない。本症例では、切断拒否という強い意思を尊重しつつ、継続的な説明と関係構築を重ねたことで、最終的に患者自身が必要な治療を受け入れる決断に至った。
在宅医療の役割は“希望を守ること”だけではなく、“現実を正確に伝え、本人が納得して選択できる環境を整えること”であることを示す症例であった。
付記情報
診療科:内科、緩和ケア科、その他
病態・症状:その他(閉塞性動脈硬化症・壊疽・骨髄炎)
世帯構成:夫婦のみ