在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/10
在宅療養下で輸血継続を行った胸腺腫合併赤芽球癆の症例
要点サマリー
再発性肺感染症を繰り返す浸潤性胸腺腫・赤芽球癆の患者に対し、在宅輸血を導入。入院偏重から脱却し、家族と過ごす時間を確保しつつ、症状緩和とQOL向上を支援した症例。
基本情報
57歳 女性
居住地:名古屋市南区
家族構成:夫・子どもと同居
保険・福祉情報
医療・介護詳細なし(入院・通院困難により在宅医療導入)
診断名
・浸潤性胸腺腫
・赤芽球癆
・左上葉無気肺(腫瘤)
・緑膿菌性肺炎の再燃
・肺MAC治療後
・SLE疑い
・糖尿病
・鉄過剰症
導入の背景
肺炎の再発を繰り返し、長期入院生活が続いていた。感染予防対策により家族との面会が制限される中、予後が読めない状況で「自宅で家族と過ごしたい」という本人の希望が強くなり、訪問診療を導入。
胸腺腫に伴う赤芽球癆により定期輸血が必要であったが、通院困難・感染反復・酸素需要増加・ADL低下により外来継続が難しく、在宅での輸血施行を検討することとなった。
介入内容と経過
在宅輸血実施に向け、輸血に習熟した訪問看護ステーションと連携。事前に訪問看護による採血を行い、検査値を確認したうえで訪問診療日に輸血を実施する体制を構築した。
輸血はMAP2単位を原則2〜3週間ごとに施行。
貧血の進行度と呼吸苦の程度を総合的に評価し、必要に応じて輸血時期を前倒しで調整した。
在宅輸血開始後、ご本人より「楽になった」との実感が得られ、副作用なく安全に継続できていた。
しかし高熱が持続し抗菌薬選択が困難となったこと、喀痰培養・耳鼻科評価など在宅対応困難な検査が必要になったことを総合的に判断し、ご本人・ご家族と相談の上、一時的に入院へ切り替えた。
医療対応の詳細
・在宅輸血(MAP 2単位/2〜3週)
・目標Hb 6.0後半〜7.0台維持
・輸血鉄過剰症管理(フェリチン2000以下目安)
・肝機能障害出現時は輸血間隔延長を考慮
・訪問看護と連携した事前採血・副反応監視体制の構築
支援のポイント
・輸血経験のある訪問看護ステーションを選定し、安全な在宅輸血体制を確保
・採血→評価→準備→輸血までを標準化し、緊急度に応じて柔軟に日程調整
・症状(呼吸苦・全身倦怠感)の訴えを重視し、数値だけに依らず治療判断
・入院・在宅の選択について都度本人・家族と話し合い、無理な在宅継続を行わない方針を共有
考察
在宅医療では特殊治療の継続が求められる場面も少なくない。本症例では訪問看護と密に連携することで、通常は病院で行われる輸血を安全に在宅で実施することが可能となった。
結果として、患者が最も望んでいた「自宅で家族と過ごす時間の確保」が実現でき、QOL向上に寄与した。また、病状変化に応じて入院へ柔軟に切り替えることで、安全性も担保できた事例である。
付記情報
・診療科:緩和ケア科、内科
・病態・症状:がん、その他(赤芽球癆・感染症)
・世帯構成:その他(夫・子同居)