在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/12/09
パーキンソン病と直腸がん終末期を併存し、ストマ管理と症状調整により在宅生活を継続したケース
要点サマリー
進行するパーキンソン病と直腸がん末期(多発転移・人工肛門造設)を併存する独居高齢男性に対する在宅支援事例である。
ストマ管理、肛門周囲皮膚トラブルの処置、疼痛評価と投薬調整、パーキンソン病薬の最適化を軸に、訪問看護と密接に連携して対応した。
ACPを共有しながら「自宅で過ごしたい」という本人の意思を尊重し、症状安定とQOL維持を図った。
基本情報
年齢・性別:73歳 男性
居住エリア:名古屋市守山区
家族構成:独居、妻は死別、いとこが唯一の親族
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療
介護保険:要介護認定(在宅サービス利用)
福祉制度:ACPノート作成・多職種共有による意思決定支援
診断名
-
パーキンソン病(Yahr分類3.5、wearing off・peak-dose dyskinesiaあり)
-
直腸がん末期(肛門・前立腺浸潤、多発肺転移)
-
人工肛門造設後(S状結腸双孔式ストマ)
-
前立腺がん(ホルモン療法中)
導入の背景
便通過障害回避のため人工肛門造設後、退院と同時にストマ管理目的で訪問看護を導入した。
当初ADLは自立で、パーキンソン病治療は専門外来通院で継続していたが、振戦・円背の進行、dyskinesia出現により通院負担が増大。
肛門部腫瘍突出と皮膚トラブル、疼痛管理・ストマパウチ交換の自己対応困難が目立つようになり、主治医判断により訪問診療の導入が決定された。
介入内容と経過
初回訪問時はdyskinesia強く、這って室内を移動する状況で、ストマパウチの剥離・汚染が頻発していた。
肛門部びらん・発赤に対し放射線障害や真菌感染を念頭にスキンケアの見直し、亜鉛華軟膏および抗真菌薬を導入。疼痛は放射線治療後より軽減しており、医療用麻薬は不要と判断。
パーキンソン症状に対しては内服調整を実施し、夕食後のドパミン製剤増量を行ったことで、夕方~夜間のすくみ・不随意運動が軽減した。
その後、食事摂取状況は安定し、趣味の写真機材の手入れなど細かな作業が再開できるまでに日常動作が改善。肛門部皮膚状態も安定し、座位時の軽度疼痛を除き鎮痛薬は不要となった。
訪問看護による週3回のストマ交換介助と皮膚ケア、多職種による定期カンファレンス、ACPノート作成・共有を継続し、在宅生活は安定している。
医療対応の詳細
-
ストマ管理:週3回の訪問看護介助下でパウチ交換、皮膚ケア実施。
-
肛門周囲皮膚:ロゼックスゲル・ステロイド外用、亜鉛華軟膏、抗真菌薬併用。
-
パーキンソン病:ドパミン製剤の服用時間調整および増量によりoff症状とdyskinesiaをコントロール。
-
疼痛管理:放射線治療後は軽減し、定期オピオイドは未使用。
-
前立腺がん:ビカルタミド内服、リュープリン皮下注射継続。
-
発熱対応:腫瘍熱に対しNSAIDs頓用。
支援のポイント
・パーキンソン病の薬効変動と肛門部疼痛・皮膚トラブルが日常生活に大きく影響するため、症状の「時間帯変動」を把握した薬剤調整が有効であった。
・独居であるため、ストマ管理は訪問看護の定期介助を組み込むことで在宅継続が可能となった。
・ACPノートを活用し、「今の望み」「今後の不安」をチームで共有することで、方針のブレを最小限に抑えた。
考察
パーキンソン病と悪性腫瘍終末期を併存する症例では、単なる緩和ケアのみならず、神経症状コントロール、排泄管理、皮膚ケアなど多面的支援が不可欠である。
特に独居症例では、専門的処置の在宅実装(ストマケアなど)と、症状時間帯に即した薬剤調整がQOL維持の鍵となる。ACPを通じた意思共有は、患者の生活目標に即した医療提供につながった。
付記情報
・診療科:内科、緩和ケア科、その他
・病態・症状:パーキンソン病、がん、その他
・世帯構成:独居