要点サマリー
仙骨部褥瘡、糖尿病、認知症を合併し、ほぼ寝たきりで通院困難となった高齢男性に対する在宅介入例である。
創部処置の継続、感染管理、栄養および糖尿病管理、認知症症状への薬物調整を並行して行い、訪問看護との密な連携で治癒方向へ導いた。
状態安定とともに介護抵抗が軽減され、家族の介護負担も大きく改善した。
基本情報
年齢・性別:85歳 男性
居住エリア:名古屋市内
家族構成:妻と同居、週末を中心に長女の支援あり
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療1割
介護保険:要介護2(1割)
診断名
仙骨部褥瘡
糖尿病
認知症
導入の背景
訪問看護から、褥瘡悪化および排尿管理不良(バルーンカテーテル管理困難)の相談があり、ADLはほぼ寝たきりとなり通院困難な状態であった。
褥瘡治療と全身管理を目的として訪問診療導入の相談があり、早期介入の必要性から速やかに訪問開始となった。
介入内容と経過
初回診察時、認知症による易怒性・暴言・介護抵抗が強く、体位変換のみでも拒否を認めたが、意思疎通は可能でHDS-Rは7/30点であった。認知症治療目的にメマリーを開始した。
糖尿病は内服で管理中であり、低血糖を避けた緩やかなコントロールを目標とした。
仙骨部褥瘡は7.5×4.0cmで深度不明。訪問看護に特別指示を出し、洗浄後プロペト塗布とガーゼ保護にて処置開始。
以降、壊死組織出現に伴い切開、デブリードマンを複数回実施し、処置をゲーベン塗布主体に変更。感染兆候に対してサワシリン短期投与を適宜追加した。
メマリー増量後は暴言・抵抗が明らかに軽減し処置協力が得られるようになった。
栄養状態の改善と血糖管理の安定により創部治癒が加速し、褥瘡サイズは縮小を続け、最終的に1cm未満まで改善した。
現在も再発防止と全身管理を目的に訪問診療を継続中である。
医療対応の詳細
・褥瘡処置:洗浄、プロペト・ゲーベン外用、切開およびデブリードマン実施
・感染対応:抗菌薬短期投与
・認知症対応:メマリー導入および段階的増量
・糖尿病管理:内服調整、低血糖回避型コントロール
・排尿管理:膀胱留置カテーテルの観察・管理
支援のポイント
・認知症による介護抵抗を単なる「困難行動」とせず、薬物調整と環境調整を組み合わせて対応した。
・訪問看護との緊密な情報共有により、創部変化へ即応する処置選択を可能とした。
・創部管理に加えて栄養状態と糖尿病管理を同時に整えることで、治癒環境を構築した。
・家族へ処置内容・経過を丁寧に説明し、不安軽減と介護意欲維持につなげた。
考察
褥瘡治療は局所処置のみならず、栄養、糖尿病管理、感染対策、認知症ケアの包括的管理が不可欠である。本症例では、認知症症状のコントロールが処置許容性を高め、結果として創傷治癒を促進した点が重要であった。
多職種連携の即時性と継続性が、在宅でも入院治療に遜色ない改善成果をもたらした事例である。
付記情報
診療科:内科、皮膚科
病態・症状:認知症、その他(褥瘡、糖尿病)
世帯構成:夫婦のみ