コラム2025/12/03
2型糖尿病と高齢者ケア ~“血糖値だけを見ない支援”の重要性~
在宅や介護施設では、糖尿病を抱える高齢者が増えています。
食事量の低下、活動量の減少、脱水などが重なり、血糖コントロールが不安定になりやすいのが高齢者糖尿病の特徴です。
今回は、糖尿病の基本から高齢者特有のリスク、ケア現場での支援ポイントを整理します。
■ 2型糖尿病とは
糖尿病は、インスリンの作用不足により血糖値が chronically 高い状態が続く病気です。
1型は自己免疫によりインスリンがほぼ出なくなるタイプ、2型は**生活習慣の影響でインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)**ことで発症します。
日本では成人の約6人に1人が糖尿病または予備群と言われ、まさに“国民病”です。
● 放置すると進む三大合併症
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網膜症(失明リスク)
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腎症(透析の原因)
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神経障害(しびれ、感覚鈍麻、足潰瘍)
さらに、動脈硬化の進行により心筋梗塞・脳卒中のリスクも増えます。
診断は血糖値・HbA1cのほか、75gOGTTで行われます。
治療は
①食事療法 ②運動療法 ③薬物療法
の3本柱が基本です。
■ 高齢者糖尿病の“見逃されやすい”特徴
高齢者糖尿病は、若年者とは異なる注意点があります。
● 低血糖症状が出にくい
通常であれば
「動悸・発汗・手のふるえ」
といった警告症状が出ますが、高齢者は自律神経反応が鈍く、
症状に気づかないまま意識障害や転倒につながることがあります。
特に
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インスリン使用者
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SU薬(スルホニル尿素薬)使用者
は食事量の減少や脱水だけで重度の低血糖を起こすリスクがあります。
● 血糖管理が生活の質に影響
厳格な食事制限や服薬プレッシャーが
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食べる楽しみの喪失
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活動意欲の低下
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抑うつ
につながるケースもあり、メンタル面のケアも欠かせません。
■ 高齢者の血糖コントロールは「個別化」が原則
若い人であれば HbA1c 7.0%未満を目標とすることが多いですが、高齢者は一律に当てはまりません。
日本糖尿病学会と老年医学会の提言では、以下を考慮して目標値を設定します。
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認知機能
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身体機能(ADL、サルコペニア)
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併存疾患(心・腎・がん等)
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低血糖のリスク
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生活目標・残存余命
たとえば認知症や独居高齢者では、
HbA1c 7.5~8.5%程度の緩やかな管理を目指すこともあります。
厳格=良い、ではなく
「安全で無理のない血糖管理」が高齢者ケアの基本です。
■ 介護・医療連携で押さえるべき支援ポイント
ケア現場で“今日からできる”観察ポイントをまとめます。
● ① 食事・水分摂取の変化
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食べる量が減る
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水分が取れていない
→ 低血糖・高血糖どちらにもつながる
● ② 足の観察
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しびれ
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感覚鈍麻
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足に傷がある
→ 神経障害の進行や感染リスク
● ③ 意識や動作の変化
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ぼんやりする
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フラつく
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発語が遅い
→ 低血糖の可能性大
● ④ 血糖測定・服薬状況の共有
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食前/食後の血糖値
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服薬のタイミング
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新しく出現した症状
→ 医療側が方針を調整する重要情報
● ⑤ 入浴・運動後の状態
疲労感・脱力感は低血糖のサインとなることがあります。
まとめ
糖尿病は“血糖値の問題”ではなく、
全身の代謝と生活そのものに関わる病気です。
高齢者では、食欲・活動量・認知機能・薬の影響などが複雑に重なるため、
画一的な治療や制限だけではうまくいきません。
介護と医療が連携し、
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無理のない血糖管理
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その人らしい生活の維持
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小さな変化に気づく日々の観察
を徹底することで、高齢者の健康と生活の質を守ることができます。