MENU

医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

脂質異常症・高尿酸血症(痛風) ~高齢者ケアにおけるリスク理解と実践対応~

コラム2025/12/01

脂質異常症・高尿酸血症(痛風) ~高齢者ケアにおけるリスク理解と実践対応~

高齢者の生活習慣病の中でも、脂質異常症と**高尿酸血症(痛風)**は見逃すと重篤な合併症につながる重要な疾患です。
どちらも在宅・施設での“日々の観察”が早期発見につながるため、介護・医療職が知っておくべきポイントを整理します。

■ 脂質異常症

脂質異常症とは、血中の脂質バランス(LDL、HDL、中性脂肪)が基準値から外れている状態で、特にLDL高値は動脈硬化の最大の要因となります。

● 診断基準(空腹時)

  • LDL:140 mg/dL以上

  • HDL:40 mg/dL未満

  • 中性脂肪(TG):150 mg/dL以上

● 高齢者に多い背景

高齢者では代謝の低下や筋肉量の減少、内臓脂肪の増加などにより脂質異常を起こしやすく、さらに以下の特徴があります。

  • 運動療法の実行が難しい(サルコペニア・フレイル)

  • 多剤併用で副作用が出やすい

  • 認知症・嚥下能力低下で食事改善が困難

治療薬であるスタチンは有効ですが、
筋肉痛・CK上昇、肝機能障害が出ることがあり、高齢者ではより注意が必要です。

● 治療の基本

  1. 食事療法
     飽和脂肪酸の制限、魚や大豆・食物繊維の積極摂取

  2. 運動療法
     散歩・体操などの軽度有酸素運動

  3. 薬物療法
     スタチン、エゼチミブ、フィブラート系
     ★高齢者は腎機能・肝機能や併用薬を必ず考慮

● 現場で押さえたいポイント

  • 「やせている高齢者」でも脂質異常症はあるため 体型で判断しない

  • 脂質低下薬の副作用(倦怠感・筋力低下)に注意

  • 食事の嗜好を日々観察し、医療側へ共有


■ 高尿酸血症・痛風

血清尿酸値が 7.0 mg/dL超 の状態。
尿酸が結晶化すると痛風発作を起こし、繰り返すと関節破壊や腎障害を招きます。

● 高齢者で多い特徴

高齢者は腎機能低下が多く、**「排泄障害型」**の高尿酸血症が大半を占めます。

● 痛風発作の特徴

  • 足の親指の付け根に 突然の激痛

  • 足首・膝にも起こる

  • 7~10日で自然軽快するため“放置されやすい”のが問題

● 放置による合併症

  • 痛風腎(慢性腎臓病)

  • 尿路結石

  • 関節の変形・機能低下

  • 強い痛みによる歩行困難 → 転倒リスク増

● 食事・生活指導

  • プリン体の多い食品(レバー、白子、干物、エビ、カツオ、ビール)の制限

  • 十分な水分摂取(結石予防)

  • 肥満改善・節酒

  • 利尿薬は尿酸値を上げるため、医師との連携が必須

● 薬物療法

改善が乏しい場合は

  • 尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタット)

  • 尿酸排泄促進薬
    を使用。
    ★高齢者では腎機能低下や併用薬との相互作用に注意します。


■ 高齢者ケア現場での観察ポイント

介護・医療職が日常の中で気づける重要なサインです。

● 脂質異常症に関連する所見

  • 筋力低下・倦怠感(スタチン副作用の可能性)

  • 食事内容の偏り(脂っこいもの・甘いもの・アルコール)

  • 運動量の減少

● 高尿酸血症・痛風に関連する所見

  • 急な関節痛・歩行困難(痛風発作の初期)

  • 皮膚の乾燥・口渇 → 脱水気味(結石リスク)

  • 夜間の疼痛で眠れない

  • 利尿薬使用中の尿酸値悪化

まとめ

脂質異常症と高尿酸血症は、高齢者に多い“生活習慣病”であると同時に、
放置すると脳梗塞・心筋梗塞・腎障害・歩行障害など深刻な合併症につながる疾患です。

日々の観察で、

  • 歩行の変化

  • 関節痛の訴え

  • 倦怠感や筋力低下

  • 食事の偏り

  • 脱水傾向

といった小さなサインを拾い上げ、医療側と共に早期介入につなげることが、
高齢者のQOL維持と重症化予防に直結します。