コラム2025/11/26
腎臓と排尿のしくみ ~高齢者ケアに不可欠な観察ポイントと生理学的理解~
腎臓の役割と構造
腎臓は背骨の両側、腰よりやや上に左右1つずつ位置する小さな臓器(約120〜160g)ですが、生命維持に不可欠な多機能臓器です。外側は皮質、内側は髄質に分かれています。
● ネフロン(腎単位)
1つの腎臓には約100万個。以下で構成されます。
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糸球体:血液をろ過するフィルター
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ボウマン嚢:糸球体を包む袋
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尿細管(近位尿細管・ヘンレ係蹄・遠位尿細管):再吸収・分泌の主役
糸球体で作られる「原尿」は1日150〜180L。
このうち99%以上が尿細管で再吸収され、実際に排出される尿は約1.5L前後という精密な調整が行われています。
● 再吸収と分泌のメカニズム
尿細管では水・電解質・ブドウ糖・アミノ酸などを再吸収。
同時に、薬剤や水素イオンを分泌し、血液のpH調整や電解質バランス維持に寄与します。
高齢者ではこの再吸収・分泌能力が低下するため、
脱水・電解質異常・薬物中毒が起こりやすくなります。
● 腎臓の内分泌機能
腎臓は“ろ過装置”に留まらず、以下も担当します。
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エリスロポエチン産生:赤血球を作る
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レニン分泌:血圧調節(RAA系)
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ビタミンD活性化:骨代謝
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カリウム排泄:不整脈予防
高齢者では腎機能低下から
腎性貧血・高血圧・骨粗鬆症・高カリウム血症などが出現しやすく、観察が必須です。
排尿のしくみ
腎臓で生成された尿は尿管を通り膀胱へ運ばれ、蠕動運動により逆流なく流れます。
● 膀胱での蓄尿
膀胱は平滑筋でできており、300mL程度までは内圧がほぼ変わりません。
尿意は通常300〜400mLで発生します。
● 排尿反射
膀胱に尿が溜まると伸展受容器が反応し、
膀胱 → 脊髄 → 脳幹 → 大脳皮質へと信号が届きます。
大脳が「排尿してよい」と判断すると、
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排尿筋(膀胱):収縮
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内尿道括約筋:弛緩
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外尿道括約筋(自分の意思で開く):弛緩
これらが協調して排尿が成立します。
● 加齢による排尿機能の変化
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膀胱容量の減少 → 頻尿
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排尿筋収縮力の低下 → 排尿困難・残尿
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尿道括約筋の弱化 → 尿失禁
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神経反射の低下 → 尿意の遅れ
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前立腺肥大(男性) → 閉塞性排尿障害
認知症では「尿意がわからない」「トイレに行けない」ことで
機能性尿失禁も増加します。
介護・医療現場で重要な尿の観察ポイント
排尿は全身状態の変化を最も早く反映する指標です。
● 尿の色
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濃い:脱水
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赤い:血尿、結石、腫瘍
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白濁:尿路感染症
● 尿量
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減少:脱水、腎前性腎障害、心不全
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増加:糖尿病、利尿薬、腎性尿崩症
● 排尿頻度や時間帯
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夜間頻尿:心不全、前立腺疾患
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頻尿・排尿痛:尿路感染
● におい
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甘いにおい:高血糖
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強いアンモニア臭:排尿貯留、感染
● 排尿困難・残尿感
→ 前立腺肥大や神経因性膀胱を疑うサイン。
介護現場で“明日から使える”実践ポイント
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排泄介助時に 色・量・におい を短く記録する
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ポータブルトイレなら尿変化に気づきやすい
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水分摂取量を把握し、脱水・濃縮尿を予防
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尿失禁や夜間頻尿があれば
心不全・脳血管障害・前立腺疾患の可能性を必ず意識
まとめ
腎臓と排尿の働きは、**高齢者の全身状態を映す重要な“バロメーター”**です。
日々の排尿観察により、
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脱水
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感染症
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心不全
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腎機能低下
といった重大な疾患を早期に察知することができます。