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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/22

終末期がんと精神症状を併せ持つ在宅療養者に対し疼痛緩和と意思尊重を両立した看取り支援

要点サマリー

長期にわたり乳がん治療を続けてきたが通院困難となり、精神疾患による不安・被害念慮も背景に在宅療養の継続が難しい状態であった。訪問診療導入後は疼痛コントロールと精神症状の安定化を優先し、頻回訪問と緊急対応で在宅生活を支えた。終末期にはHOT(在宅酸素)と持続的鎮痛を導入し、自宅看取りを実現した。在宅移行が困難と判断されやすいケースでも、医療・介護の連携と方針の一貫性により在宅療養の可能性は広がることを示した。

基本情報

年齢・性別:82歳 女性
居住エリア:名古屋市瑞穂区
家族構成:二人暮らし(同居家族も精神疾患あり)

保険・福祉情報

医療保険:後期高齢者医療保険(1割)
介護保険:要介護5(1割)
公費:福祉給付金資格者証あり

主な診断

・乳がん術後(多発再発・骨転移疑い)
・うつ病/強迫性症状/被害念慮
・脊柱管狭窄症
・脳動脈瘤手術後

導入の背景

1985年より乳がん治療を開始し、複数回の手術とホルモン療法を継続してきた。2019年を最後に通院拒否となり、精神症状の悪化と身体状況の低下が進行。2021年には骨転移が疑われたが医療離脱状態となっていた。通院困難と対応困難感からケアマネジャーを通じて訪問診療依頼となった。

介入内容と経過

初診時からがん終末期であり全身倦怠感と疼痛が強くADLは大幅に低下していた。強い不安・不眠・被害妄想があり、医療介入や訪問スタッフへの不信感も見られたため、信頼関係の構築を優先し毎週の定期訪問体制(内科3回・精神科1回)を組んだ。

疼痛コントロールではフェンタニルテープを導入し、レスキューとしてオキノーム散を使用。呼吸苦増悪時にはHOT(在宅酸素療法)を導入し、倦怠感や食思不振に対して点滴を併用。精神症状の悪化が疼痛増強や不眠につながるため、精神科訪問を組み合わせ症状安定を図った。

皮膚症状・眼科症状・不安発作など随時の緊急往診を繰り返しながら、苦痛緩和と安心支援を継続。最終的に約1年半にわたり在宅で療養を継続し、自宅での看取りとなった。

医療対応

・疼痛緩和ケア(フェンタニルテープ、オキノーム散)
・呼吸苦対応(HOT導入)
・精神症状フォロー(精神科併診)
・在宅点滴管理
・緊急往診対応
・家族支援および在宅看取り支援

支援のポイント

  • 「疼痛コントロール+不安対処」が終末期支援の中心

  • 医療不信・拒否傾向があっても“関係性形成”の積み重ねが在宅継続を支える

  • 精神科併診により在宅療養が安定するケースは多い

  • 看取り支援は早期からの方針確認と“安心材料の提供”が重要

付記情報

疾患種別:がん終末期/精神疾患併存
医療処置:HOT、Baカテーテル、在宅点滴
生活環境:二人暮らし(同居家族も支援困難要素あり)
医療負担:1割
支援構造:訪問診療(内科・精神科)+訪問看護+ケアマネ連携
在宅期間:約1年半/自宅看取り