在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/22
重度嚥下障害と認知症を抱える高齢者に対し、吸引支援を軸に在宅生活を支えた訪問診療の実践
要点サマリー
認知症に加え嚥下機能低下と吸引を要する状態となった高齢患者に対し、家族支援と吸引体制構築を中心に在宅療養を支えた事例である。吸引手技への不安や家族の理解不足といった課題を抱えながらも、丁寧な指導と方針説明を重ねることで在宅療養期間を確保した。結果として、家族は「最期まで自宅で過ごす」という希望を実現し、満足度の高いケアにつながった。ケアマネジャーにとっては、在宅療養における吸引支援の実際と家族支援の重要性を示す内容である。
基本情報
年齢・性別:92歳 男性
居住エリア:名古屋市中区
家族構成:本人・妻・長男の3人暮らし(長女は同区内在住)
保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割)
介護保険:要介護4(1割)
福祉給付金資格者証あり
診断名
認知症/S状結腸がん術後/ラクナ梗塞/L1圧迫骨折/嚥下機能低下
導入の背景
入退院を繰り返しADLが低下、車椅子生活となったことに加え、嚥下機能が低下し誤嚥リスクが高くなった。通院は困難となり、本人・家族の希望から在宅療養へ移行するため訪問診療が導入された。
介入内容と経過
初期介入時の最大の課題は口腔内分泌物の貯留と誤嚥リスク増大であり、吸引を前提とした在宅対応が不可欠であった。しかし主介護者である妻は吸引への理解が乏しく、実施への心理的不安も強かった。そのため、訪問ごとに吸引手技指導・安全管理・誤嚥予防の説明を積み重ねた。
状態悪化に備え、早期から病状の見通しや治療方針を主治医より家族へ繰り返し説明し、意思決定のプロセスを共有した。最終的に病状進行により当院へ入院、その後療養目的で転院となったが、ご家族は「最期の期間を自宅で過ごすことができた」と在宅療養を肯定的に評価した。
医療対応の詳細
・嚥下評価と誤嚥リスク管理
・吸引指導と在宅吸引体制の整備
・食形態調整(ゼリー・とろみ茶)
・経過と予後の説明を繰り返し実施
・終末期を見据えた意思決定支援
支援のポイント
・「吸引」は在宅継続の可否を左右する重要テーマ
・介護者教育は技術習得と心理的支援の両面が必要
・状態変化が予測されるケースは早期から方針共有を
・家族の思いを尊重しながら現実的な支援策を調整
考察
吸引を必要とする高齢者の在宅支援では、医療依存度よりもむしろ「家族の理解と支援体制」が継続可否の大きな要素となる。本例では、時間をかけた説明と家族支援により在宅療養を一定期間実現できた点が重要である。ケアマネジャーは、訪問診療・訪問看護と連携しながら、在宅継続のハードルとなるケア(吸引・排痰・食事介助)に早期介入することが求められる。
付記情報
・疾患種別:認知症/終末期対応
・病名:認知症、S状結腸がん術後、嚥下障害ほか
・医療処置:吸引(家族対応)、食形態調整
・エリア:名古屋市中区
・生活環境:家族同居(介護負担高)
・医療負担割合:1割
・専門医介入:外科術後フォロー経過あり
・公費負担医療:福祉給付金資格者証
・障害者手帳・認定情報:該当なし