在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/22
認知機能低下と通院困難を背景に在宅療養へ移行した高齢夫婦の支援
要点サマリー
脳梗塞後遺症による片麻痺と認知症を有する妻に対し、通院困難を契機に訪問診療へ移行した事例である。夫も重度の認知症を抱えており、夫婦双方の生活維持が困難な「在宅崩壊リスク」が高い状態であった。訪問診療による医学的フォローだけでなく、福祉制度の活用調整や家族支援、生活リスクの評価を同時並行で進めることにより、在宅生活の継続を可能とした。
基本情報
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年齢・性別:80歳 女性
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居住エリア:名古屋市名東区
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家族構成:夫と2人暮らし(長男は東京在住、長男の妻は名古屋在住)
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キーパーソン:夫(ただし自身も重度認知症のため実質的支援困難)
保険・福祉情報
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医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
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介護保険:要介護5(1割負担)
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その他:福祉給付金資格者証あり
診断名
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脳梗塞後遺症(右同名半盲、右片麻痺、感覚障害)
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脳血管性認知症
導入の背景
在宅での生活中に転倒が増加し脳梗塞を発症。退院後は感情失禁や易怒性、抑うつ傾向が出現し、通院負担が増大した。次第に通院継続が困難となり、家族から訪問診療導入を希望された。
介入内容と経過
訪問診療開始後も生活不安が強く、本人は自宅を港区と認識していたり、年齢を誤認するなどの見当識障害が継続した。また「死にたい」などの発言がみられ、精神的ケアも同時に必要な状態であった。
一方、同居する夫も重度の認知症により支援力が乏しい状態であり、夫婦双方の生活維持が困難な状況であったが、本人が施設入所を拒否しているため在宅支援の継続方針となった。
訪問診療開始から半年後、夫も通院困難となったことから新たに訪問診療介入を開始。以降、同一医療チームにて夫婦支援体制を構築し、生活および医療の両面からサポートを継続している。
医療対応の詳細
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定期訪問診療(月2回)による健康管理
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服薬調整と内服アドヒアランスの支援
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心理的安定を目的とした精神症状のフォロー
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家族・支援者との情報共有を重視した継続的ケア
支援のポイント
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在宅崩壊リスクの早期察知と多職種連携
夫婦ともに支援力が乏しいため、訪問看護・ケアマネジャー・地域包括と密に連携。 -
夫婦支援モデルの構築
妻中心のケアから夫婦単位のケアマネジメントへ転換し、安全と生活維持を優先。 -
精神・生活両側面の評価
医療・福祉・生活不安を並行的に支援し、拒否感の強い本人に対する信頼関係を形成。
考察
本事例のように、家族支援力が低く在宅崩壊リスクが高いケースでは、医療のみならず包括的な生活支援体制の構築が不可欠である。特に高齢夫婦世帯での認知症支援は、意思決定支援やリスク管理、多職種連携の難易度が高く、支援者側の継続的な評価と柔軟な対応が求められる。
付記情報
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疾患種別:慢性期・認知症
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病名:脳梗塞後遺症、脳血管性認知症
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医療処置:特になし
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エリア:名古屋市名東区
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生活環境:高齢夫婦世帯、支援力低い
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医療負担割合:1割
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専門医介入:必要時紹介検討
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公費負担医療:福祉給付金資格者証
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障害者手帳・認定情報:なし