在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/21
家族の強い希望のもと自宅看取りを選択した若年乳がん患者の在宅支援
要点サマリー
進行乳がんの終末期にあり、急速な全身状態の悪化の中で在宅看取りを希望された症例である。余命わずかの状況下でも、家族支援と緊急連携体制の構築により、本人の希望を尊重した在宅移行を実現した。在宅緩和の原則である「本人・家族の意思確認」「環境整備」「迅速な訪問導入」の重要性が示されている。
基本情報
45歳 女性
名古屋市千種区在住
家族構成:夫・長女・長男との4人暮らし
キーパーソン:夫
実両親が近隣に居住しサポート可能
保険・福祉情報
健康保険:3割
介護保険:新規申請中(予定1割負担)
診断名
左乳がん術後/多発転移(肝・骨)/終末期状態
導入の背景
授乳期に左乳がんの診断を受け、化学療法・ホルモン療法・手術・放射線治療を継続してきたが、骨転移に続き肝転移が出現し病状は進行性であった。抗がん剤治療を継続していたが、全身状態悪化のため治療継続は困難となり、主治医よりBest Supportive Care(BSC)方針が提示された。急変入院後、本人・家族が「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」と強く希望し、当院に訪問診療が依頼された。
介入内容と経過
退院当日に初回訪問を実施し、急変が想定される状態であることを医療側・家族間で共有した。疼痛・腹部膨満感・倦怠感などの全身症状が強く、緩和ケアを中心としたサポートが必要であった。介入開始同日より看取り期の支援体制を整え、家族と意思確認を密にしながら在宅療養を開始したが、同日夜に自宅にて安らかに最期を迎えた。
医療対応の詳細
・疼痛・呼吸苦・倦怠感などに対する緩和ケア中心の管理
・家族への看取り期説明と事前の方針確認(DNAR含む)
・緊急往診体制の即時構築
・退院当日より訪問看護と連携開始
支援のポイント
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余命わずかでも、迅速な在宅導入と看取り体制の整備により自宅療養は可能である
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医療者主導ではなく「本人と家族の意思を軸にした在宅方針決定」が重要
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若年がん患者では家族心理的負担が大きく、家族支援が極めて重要
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急変時対応を事前に合意形成することが在宅継続の鍵となる
考察
本症例は、病状が急速に悪化し在宅移行の準備期間が極めて短い中でも、関係機関の即応体制により本人の希望を叶えられたケースである。特に、がん終末期患者の希望実現のためには「意向確認のタイミング」と「早期の訪問連携」が結果を左右する。在宅医療は「看取りの選択肢」を提示しうるケアの一形態として重要な役割を果たす。
付記情報
疾患種別:終末期がん
病名:乳がん術後・多発転移
医療処置:緩和ケア
エリア:名古屋市千種区
生活環境:家族同居
医療負担割合:3割
専門医介入:腫瘍内科
公費負担医療:該当なし
障害者手帳・認定情報:該当なし