在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/16
未成年の子どもたちと暮らす外国籍患者への在宅緩和ケア支援のケース
基本情報
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年齢・性別:45歳・女性
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居住地:名古屋市守山区
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家族構成:離婚後、長女・次女(高校生・小学生)と3人暮らし
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保険情報:健康保険(3割)、丸障、要介護4(1割負担)
診断名
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脊髄悪性神経膠腫(胸髄原発)
導入の背景
2021年頃より右膝脱力・左大腿のしびれが出現。精査の結果、胸髄に腫瘍を認め、2022年3月および8月に生検を実施し、**脊髄原発の悪性髄内腫瘍(神経膠腫)**と診断された。
放射線治療およびテモダール内服治療を継続中であるが、両下肢完全麻痺・膀胱直腸障害があり、重度の介護を要するため、訪問診療を導入。
診療経過と対応
#1 脊髄悪性神経膠腫末期状態
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テモダール(Temozolomide)による化学療法を月5日内服、23日休薬のサイクルで継続。
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放射線治療(全脳・全脊髄照射)を実施済み。
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自尿困難でバルーンカテーテル管理中。
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両下肢完全麻痺のため、ベッド上中心の生活。
#2 放射線熱傷
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照射後皮膚炎・熱傷部に対してプロペト塗布で経過観察。
#3 便秘症
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リンゼス服用中だが、食事摂取量低下により硬便傾向あり。必要に応じて調整。
#4 神経障害性疼痛
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強い灼熱痛あり、入浴困難。フェントステープ0.5mgを開始し疼痛コントロール実施。
医療処置
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バルーンカテーテル留置
支援上の課題と方針
1. 言語・文化的ギャップへの対応
患者は外国籍であり、病状理解や終末期医療に対する受容が十分ではない。
→ 医療通訳・ピクト支援資料の活用、非言語的サポート(ジェスチャー・イラスト説明)を実施。
→ 医師・看護師が繰り返しの確認と説明を行い、意思決定支援を継続。
2. 未成年家族による介護体制
高校生・小学生の娘たちのみで支える家庭状況。
→ 感情的・心理的負担が大きく、教育・生活と介護の両立が課題。
→ 地域包括支援センター・スクールソーシャルワーカー・訪問看護と連携し、緊急時には搬送・入院も選択肢とする方針。
3. 医療チームの支援体制
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医師・訪問看護師・ケアマネで定期カンファレンスを実施。
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苦痛増強時は即時往診・入院判断できるよう情報共有体制を整備。
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精神的サポートを強化するため、**メンタルケア専門職(臨床心理士/訪看による傾聴)**を随時導入検討。
現状とまとめ
介入から1年以上経過。疼痛や身体機能の制約は大きいが、本人・家族の希望に沿って在宅療養を継続中。
医療面では疼痛緩和と褥瘡・排泄管理を中心に対応し、社会的側面では子どもの安心支援を重視している。
考察
本症例は、若年がん患者が未成年の子を養育しながら在宅療養を行うという極めて負担の大きいケースである。
医療的ケアだけでなく、文化的・心理的・家族支援の包括的支援体制が不可欠であり、在宅医療の限界と可能性を示す象徴的な事例といえる。
付記情報
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疾患種別:悪性腫瘍(脊髄悪性神経膠腫)
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医療処置:バルーンカテーテル留置
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エリア:名古屋市守山区
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生活環境:外国籍・母子家庭(未成年2名)
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医療負担割合:3割(健康保険+丸障)
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公費負担医療:丸障
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介護度:要介護4
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障害者手帳・認定情報:身体障害者手帳取得(推定)