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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/15

直腸がん多発肝転移、治療適応外の高齢患者に対し、自然経過を尊重した在宅緩和ケアのケース

基本情報

  • 年齢・性別:90歳・男性

  • 居住地:名古屋市千種区

  • 家族構成:本人・妻の二人暮らし。長男夫妻が近隣に在住し支援。

保険・福祉情報

  • 医療保険:後期高齢者医療保険(2割負担)

  • 介護保険:要介護4(1割負担)

診断名

  • 直腸癌

  • 多発肝転移

導入の背景

2023年1月27日、血便を主訴にT医療センターを受診。
同月31日に下部消化管内視鏡検査で大腸ポリープを内視鏡的粘膜切除術施行。下部直腸に1型腫瘍を認め、これが出血の原因と考えられた。

家族と相談のうえ、年齢・全身状態を踏まえて手術は行わない方針とし、2月に退院。以降も下血を繰り返し、7月には貧血のため輸血対応を実施。11月の再入院時、CTで肝転移を確認し、Stage IVと診断された。
超高齢であり手術・抗癌剤治療の適応はなく、BSC(Best Supportive Care:緩和的治療)へ移行。退院後は在宅療養・看取り希望があり、当院訪問診療を開始した。

導入後の経過

  • 2023年11月14日:Hb7.2g/dl。輸血は基本的に施行せず、自然経過を尊重する方針を本人・家族と確認。

  • 12月:比較的落ち着いた状態で自宅生活を継続。疼痛や倦怠感に対して緩和的な支持療法を実施。

  • 2024年1月:症状悪化(吐き気、腎不全進行)。ご家族と主治医で話し合い、延命目的の点滴は行わず、自然な経過を見守る方針で合意。

  • 1月8日:自宅にて妻・家族に見守られながら永眠。

医療対応

  • 積極的治療は行わず、自然経過を尊重した緩和ケア中心の対応。

  • 医師・家族間で早期に方針を統一(輸血・点滴を行わない)。

  • 症状コントロールと心理的サポートを重視した在宅支援体制を維持。

支援のポイント

  • 高齢患者における**治療選択の最適化(非介入の決断)**と、家族の納得形成を両立できたケース。

  • 「できる限り自然に、自宅で過ごしたい」という本人の意思を中心に、医療行為を最小限に抑えた点が特徴。

  • 医療・介護の連携を維持しながら、家族の不安軽減と看取り支援を実現した。

考察

本症例は、終末期医療において「治療をしないことを決断する勇気」が本人・家族・医療者で共有された例である。
延命よりも「尊厳ある生活の継続」を優先し、自然な死を受け入れるプロセスを伴走する在宅医療の在り方を示唆している。

付記情報

  • 疾患種別:悪性腫瘍(直腸癌、多発肝転移)

  • 医療処置:なし

  • エリア:名古屋市千種区

  • 生活環境:本人+妻の2人暮らし、近隣に長男夫妻の支援あり

  • 医療負担割合:2割

  • 専門医介入:T医療センター(初期診断・入院対応)

  • 公費負担医療:なし

  • 障害者手帳・認定情報:記載なし