在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/15
前医との併診から段階的に訪問診療へ移行し、独居での在宅療養を支えた前立腺癌患者のケース
基本情報
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年齢・性別:78歳・男性
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居住地:名古屋市千種区
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家族構成:独居。かつて結婚していたが離婚。子ども3人とは連絡を取っていない。
保険・福祉情報
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医療保険:生活保護
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介護保険:要介護1(1割負担)
診断名
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前立腺がん
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多発骨転移
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多発リンパ節転移
導入の背景
2019年2月、前医A病院で前立腺がんおよび多発骨転移の診断を受け、ビカルタミド+ゴナックスで治療開始。
同年11月にPSA上昇を認め、ドセタキセル療法を導入するも、両上肢のしびれ出現により中止。以後、オダインおよびゾーフィゴにて治療継続されていた。
2022年11月、A病院より当院へ訪問診療の紹介あり。A病院としては通院困難を見据え「終診(訪問移行)」の意向であったが、本人が前医への信頼を強く持っており、「いきなり訪問診療一本化は不安」との希望を表明。
そのため、当面は併診体制で経過をみながら、段階的に訪問へ移行する方針を前医と共有した。
経過と対応
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2022年11月より当院が定期訪問を開始。前医での治療継続と並行してフォロー。
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症状は比較的安定しており、疼痛コントロールや全身状態の変化を訪問で確認。
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2023年7月、本人より「通院が負担」との訴えあり、当初の計画通り訪問診療へ一本化。
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独居ではあるが、医療スタッフとの信頼関係が構築され、以後も安定した在宅療養を継続中。
医療対応の詳細
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疼痛・全身管理を中心とした緩和的フォロー。
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前医治療の情報共有を継続しながら、投薬管理や全身状態の観察を実施。
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経済的支援(生活保護)との連携体制を維持。
支援のポイント
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本人の「信頼する医療者から離れたくない」という心理的抵抗に配慮し、併診→段階的移行というプロセスをとった点が功を奏した。
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独居・家族不在という社会的孤立を背景に、医療スタッフが「支援ネットワークの代替」として継続的関与を行った。
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医療的安定と心理的安心を両立する設計により、本人の生活意欲・治療継続意識が保たれた。
考察
本症例は、独居・家族関係の断絶・終末期が重なりやすい在宅療養において、「信頼関係の連続性」を最重視した移行支援が奏功した事例である。
在宅医療へのスムーズな移行には、医療的引継ぎだけでなく、“本人の医療観・信頼の移行”という心理的プロセスへの配慮が不可欠であることを示している。
付記情報
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疾患種別:悪性腫瘍(前立腺癌)
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病名:前立腺癌、多発骨転移、多発リンパ節転移
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医療処置:なし
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エリア:名古屋市千種区
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生活環境:独居
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医療負担割合:1割(生活保護)
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専門医介入:A病院(前立腺がん治療)
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公費負担医療:生活保護
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障害者手帳・認定情報:記載なし