在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/15
終末期のがんを抱えながら、自宅での最期を望んだ高齢男性の在宅緩和ケアケース
基本情報
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年齢・性別:89歳・男性
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居住地:名古屋市東区
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家族構成:本人独居。キーパーソンは長女。近隣に長女夫妻、市内に次女・三女が在住。
保険・福祉情報
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医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
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介護保険:要介護4(2割負担)
診断名
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高血圧症
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狭心症あるいは心筋梗塞(2017年C病院にてステント治療、詳細不明)
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糖尿病
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高脂血症
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高尿酸血症
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アルコール依存症
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不眠症
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右大腿部褥瘡
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胃癌(2017年手術)
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横行結腸癌(2019年指摘、2021年以降進行)
導入の背景
2017年10月、胃癌で腹腔鏡下幽門側胃切除術(T1b N2 M0 StageⅡA)を実施。2019年には早期横行結腸癌を指摘されるが、本人の希望で手術を行わず経過観察となった。2021年、下血を契機にN医療センターへ入院。大腸腫瘍は増大傾向を示し、2022年4月には横行結腸癌の進行を確認。
本人はこれ以上の検査や入院加療を望まず、「自宅で最期まで過ごしたい」と強く希望したため、F医科大学病院緩和科に転科。急変リスクやDNAR(蘇生処置拒否)の方針について本人・家族へ説明のうえ理解を得た。2022年8月25日、当院へ訪問診療依頼となり、9月7日より介入を開始した。
介入内容と経過
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初期介入後3か月間はADL(移動・排泄・食事)を維持。疼痛コントロールも調整を行いながら安定。
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栄養低下・貧血に対しては対症療法を中心に実施。
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家族との連絡体制を明確化し、急変時対応を共有。
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2023年1月21日、呼吸苦が出現し、家族希望により在宅酸素療法(2L)を導入。
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翌22日、ご自宅にて家族に見守られながら永眠された。
医療対応の詳細
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疼痛・呼吸苦に対する緩和ケア(内服・在宅酸素導入)
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栄養・水分摂取の最適化
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家族への看取り準備支援
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F医科大学病院との情報共有と連携
支援のポイント
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本人の強い在宅希望に対し、緩和科・訪問診療・家族支援を一体化した支援体制を構築できた。
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終末期における「本人の選択」を尊重し、急変対応を含め家族と共通理解を持つことが重要であった。
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医療介入を最小限に留めながらも、疼痛・呼吸苦への即応体制により安らかな看取りを実現した。
考察
本症例は、多疾患を抱える高齢男性が最期の選択として「自宅での看取り」を選んだケースである。医療依存度を下げつつ生活の場を維持するためには、早期からの緩和医療チームとの連携と、家族・本人の意思統一が鍵となる。
また、終末期医療の現場において「治療の中止」ではなく「生の尊重」として在宅緩和を位置づけることの意義を再確認する症例であった。
付記情報
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疾患種別:悪性腫瘍、循環器疾患、代謝疾患
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病名:胃癌、横行結腸癌、高血圧症、糖尿病、心疾患、アルコール依存症など
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医療処置:在宅酸素療法、緩和ケア
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エリア:名古屋市東区
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生活環境:独居、近隣に長女夫妻の支援あり
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医療負担割合:1割
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専門医介入:F医科大学病院 緩和科
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公費負担医療:該当なし
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障害者手帳・認定情報:記載なし