在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/10/15
独居高齢女性、家族支援と生活保護申請を調整しながら在宅看取りを支えたケース
基本情報
-
年齢・性別:87歳・女性
-
居住地:名古屋市名東区
-
家族構成:本人独居。夫と離婚。長女(東区在住)あり。過去に金銭的トラブルで別居していたが、関係は修復傾向。
保険・福祉情報
-
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
-
介護保険:要介護4(1割負担)
診断名
-
膵尾部癌
-
遠隔転移疑い
導入の背景
元来健康で通院歴もなかったが、2021年頃より食思不振と体重減少が出現。2022年11月、体動時の息切れを主訴にA病院を受診し、膵尾部癌および周囲リンパ節・肝・左副腎転移を疑う所見を認めた。
本人はこれ以上の精査や入院加療を希望せず、「自宅で最期まで過ごしたい」との意向を示されたため、同年12月3日に当院が初診・訪問診療を開始した。
家族関係と支援体制
本人は独居であり、在宅療養を行う上で家族支援が不可欠であったため、当院より長女に状況を説明。長女は「しばらく泊まり込みで支援できる」と快諾した。
ただし、過去にマルチ商法をめぐる金銭的トラブルがあり、本人は金銭面での不安を強く抱いていた点が懸念された。
経過と対応
当院スタッフと長女との間で、医療・介護費用の支払い方法を含めた支援方針を複数パターンで検討。
本人の全身状態から年越しは難しいと見込まれており、速やかに生活保護の申請を行ったが、認定が下りる前の2022年12月半ばに自宅で永眠された。
申請が間に合わなかった場合の対応として、長女が一時的に分割で費用を負担する旨を事前に取り決めており、結果的に経済的・感情的なトラブルなく看取りまで進めることができた。
支援のポイント
-
独居で終末期を迎える高齢者において、家族関係の再構築と経済的支援体制の整備が両輪となったケース。
-
医療的ケアに加えて、社会的課題(生活保護申請、費用分担)を早期にチームで可視化・調整したことが功を奏した。
-
家族の介入を「再接近の機会」として位置づけ、関係修復につながった点も重要である。
考察
本症例は、医療・介護・福祉・家族関係といった複数の脆弱性が重なり合う中で、早期に包括的支援を整備することで安定した在宅看取りを実現した例である。
終末期支援においては、医療行為以上に「経済的・心理的セーフティネットの設計」が不可欠であることを示唆している。
付記情報
-
疾患種別:悪性腫瘍(膵癌)
-
病名:膵尾部癌、遠隔転移疑い
-
医療処置:なし
-
エリア:名古屋市名東区
-
生活環境:独居、長女の一時的支援あり
-
医療負担割合:1割
-
専門医介入:A病院(初期診断)
-
公費負担医療:生活保護申請中
-
障害者手帳・認定情報:記載なし