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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/09/30

終末期肺MAC症患者、家族の強い希望で自宅へ退院し看取りを実現したケース

■ 基本情報

  • 年齢・性別:83歳・女性

  • 居住地:名古屋市千種区

  • 家族構成:夫・長男との3人暮らし

■ 保険・福祉情報

  • 医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)

  • 介護保険:申請予定

■ 診断名

  • 肺MAC症(非結核性抗酸菌症)

  • 細菌性肺炎

  • 続発性気胸(反復)

  • 高二酸化炭素血症(CO₂ナルコーシス寸前)

■ 導入の背景

T医療センターで非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の診療を受けていた。高齢および薬剤不耐容のため、標準治療は行えず抗菌薬単剤治療が続けられていたが、喀痰検査でMACは検出されなくなり治療は終了。しかし肺の荒廃は著しく進行していた。

2024年4月22日、SpO₂低下と肺陰影の増加、炎症反応上昇により細菌性肺炎と診断され入院。5月2日に左続発性気胸、5月14日にも再度虚脱を起こしたがドレナージは不要とされ保存的治療が行われた。その後、傾眠傾向が出現しpCO₂ 93と高値。CO₂ナルコーシスの一歩手前であったが、人工呼吸器(NIPPV)の導入は本人が拒否したため行わない方針となった。

本人・家族は以前から自宅での看取りを希望しており、訪問診療の導入が決定された。

■ 介入内容と経過

当初は5月24日の退院に合わせて訪問診療を開始予定であったが、状態が急速に悪化。5月23日午後からは食事・内服が不能となり、意識レベルも低下。主治医から「いつ亡くなられてもおかしくない状況」と説明を受けた。

それでも「どうしても自宅に帰したい」という家族の強い希望により、急遽退院。当院も対応を調整し、初診日を前倒しで訪問診療を実施。初診当日に自宅でご逝去となった。

■ 医療対応の詳細

  • 在宅酸素療法(HOT)

  • 点滴管理

  • 延命治療(人工呼吸器等)は行わず、本人の意向を尊重

■ 支援のポイント

  • 終末期においても「本人・家族の強い希望」を最優先とし、自宅退院を実現

  • 状態急変への即応性と、訪問診療・病院との柔軟な調整が不可欠であった

  • 家族が「自宅で看取れた」という満足感を得たことは、グリーフケアの観点からも大きな意味を持った

■ 考察

本症例は、肺MAC症の終末期において在宅看取りを実現したケースである。医療的には呼吸不全が急速に進行しており、病院での継続入院が一般的な選択肢であった。しかし、本人・家族の希望を尊重し、医療チームが即時に調整することで、自宅での安らかな最期が可能となった。終末期医療では「医学的適応」と「本人・家族の希望」とのバランスをどう取るかが重要であり、この事例はその実践例となる。

■ 付記情報

  • 疾患種別:呼吸器疾患

  • 病名:肺MAC症、細菌性肺炎、続発性気胸、高CO₂血症

  • 医療処置:点滴、HOT(在宅酸素療法)

  • エリア:名古屋市千種区

  • 生活環境:夫・長男との同居

  • 医療負担割合:1割

  • 専門医介入:T医療センター(呼吸器科)

  • 公費負担医療:なし

  • 障害者手帳・認定情報:なし