在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/09/30
転移性骨腫瘍と多発がんを抱える独居患者、疼痛悪化で入院に至ったケース
■ 基本情報
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年齢・性別:68歳・男性
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居住地:名古屋市中区
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家族構成:独居。身寄りなし。姉は遠方にいるが交流なし
■ 保険・福祉情報
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医療保険:生活保護
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介護保険:要介護3(1割負担)
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身体障害者手帳:あり(網膜色素変性症 2級)
■ 診断名
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転移性骨腫瘍(L5、多発肺転移)
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左尿管がん(原発)
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胃がん
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陳旧性心筋梗塞(PCI歴あり)
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内頚動脈狭窄症(血管吻合術後)
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網膜色素変性症
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腰部脊柱管狭窄症
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高血圧症
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慢性腎不全
■ 導入の背景
元々は腰部脊柱管狭窄症にてA病院へ通院していた。2022年9月末に右下肢脱力と両下腿の疼痛が出現し、MRIでL5・仙骨に転移性骨腫瘍を確認。精査の結果、左尿管原発の骨転移、さらに胃がんも併存していることが判明した。
転移性骨腫瘍に対し放射線治療を施行するも、運動障害と疼痛が残存。その後L4/5椎弓切除術を受けたが、化学療法は希望せずBSC方針となった。2023年1月にリハビリ目的でB病院へ転院。
3月末、自宅退院にあたり訪問診療を導入した。
■ 介入内容と経過
訪問診療導入後、全身状態や疼痛コントロールを中心に診療を継続。
4月中旬、訪問看護から「強い疼痛により食事摂取ができない」との報告があり、医師の判断でフェントステープを処方。さらに翌日には入院対応を行い、急変に備えた体制を整えた。
その後、5月中旬にC病院へ転院し、以降は当院での訪問診療は終了した。
■ 医療対応の詳細
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フェントステープによる疼痛コントロール
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訪問看護との連携による症状変化の即時対応
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入院調整と緊急時対応
■ 支援のポイント
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独居で身寄りがない患者にとって、訪問診療と訪問看護の連携は安全な療養環境を担保するために必須であった
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癌性疼痛の増悪に対して、外来や在宅だけでなく「入院を含むフレキシブルな対応」が重要である
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身体障害や慢性疾患が併存するケースでは、患者のADLや生活背景を考慮した総合的な支援体制が必要となる
■ 考察
本症例は、複数の悪性腫瘍と慢性疾患を併発した独居患者における訪問診療導入事例である。疼痛管理を中心に在宅での療養を試みたが、疼痛の悪化により食事困難をきたし入院が必要となった。
在宅医療は独居患者にとって生活を支える基盤となり得るが、急変や症状悪化に備え、入院を含めた柔軟な医療体制を確保することが不可欠であることを示している。
■ 付記情報
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疾患種別:泌尿器系腫瘍、消化器系腫瘍、循環器疾患、神経疾患
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病名:転移性骨腫瘍、左尿管がん、胃がん、陳旧性心筋梗塞、内頚動脈狭窄症、網膜色素変性症、腰部脊柱管狭窄症、高血圧症、慢性腎不全
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医療処置:なし
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エリア:名古屋市中区
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生活環境:独居(姉は遠方、交流なし)
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医療負担割合:生活保護(1割)
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専門医介入:A病院(整形外科、泌尿器科)、B病院、C病院
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公費負担医療:生活保護
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障害者手帳・認定情報:身体障害者手帳2級(網膜色素変性症)