コラム2025/09/26
高齢者に多い肺炎と誤嚥性肺炎~リスク因子と現場での予防視点
◆約6分で理解できる動画解説
肺炎は依然として高齢者の健康を脅かす代表的な疾患です。加齢による生理的変化や基礎疾患の存在によって重症化しやすく、介護・医療の現場でも日常的に直面するテーマといえます。特に誤嚥性肺炎は再発を繰り返しやすく、生活の質(QOL)や生命予後に直結することから、予防と早期発見の重要性が強調されています。
肺炎の特徴と高齢者におけるリスク
肺炎は、細菌やウイルスが鼻や口から侵入し、気道を通って肺に到達し炎症を起こす疾患です。厚生労働省の統計によれば、肺炎は日本人の死因の第5位を占めており、腫瘍や心疾患に次ぐ重大な健康問題です。
高齢者では以下の要因から肺炎が重症化しやすいとされています
- 呼吸器系の慢性疾患の存在
慢性気管支炎、気管支喘息、肺気腫、肺線維症などを持つ高齢者は、日常的に気道炎症が生じており、感染を契機に肺炎へ移行しやすくなります。 - 全身性慢性疾患の影響
腎不全、肝硬変、糖尿病などの慢性疾患は免疫力を低下させ、細菌・ウイルスに対する抵抗力を弱めます。その結果、肺炎の発症率が高まり、重篤化しやすい傾向があります。 - 高齢による防御機能の低下
咳嗽反射や線毛運動の低下により、気道に入った異物や病原体を排除する力が弱まり、感染が成立しやすくなります。
このように、加齢そのものに加えて、基礎疾患や機能低下が複合的に影響することで、肺炎のリスクは増大するのです。
誤嚥性肺炎の発症メカニズムと臨床的特徴
誤嚥性肺炎は高齢者に最も多い肺炎の一つで、特に要介護高齢者の生命予後に直結する重大な疾患です。
発症の背景
- 嚥下機能の低下
加齢や脳血管障害、神経疾患により嚥下の調整が不十分となり、食塊が気道に迷入しやすくなります。 - 咳嗽反射の減弱
本来であれば、異物が気道に入った際には強い咳によって排除されます。しかし高齢者では反射が弱まり、誤嚥した食物や唾液が肺に到達しやすくなります。 - 口腔内衛生状態の影響
不十分な口腔ケアにより増殖した細菌が唾液とともに気道へ流入し、肺炎を引き起こすことがあります。
症状の特徴
誤嚥性肺炎は典型的な「肺炎らしい症状」が出にくいことがあり、注意が必要です。
- 発熱(特に午後や夜間に繰り返す熱)
- 咳や痰(黄色く粘性の強い痰が出る場合は要注意)
- 食事中のむせ込み、咳き込み
- 全身倦怠感や食欲不振のみで発症する場合もある
介護現場では、**「食事のたびにむせる」「発熱が続く」「痰が絡む」**といったサインを早期に捉えることが重要です。
介護・医療現場でできる予防の工夫
誤嚥性肺炎の予防には、以下の取り組みが効果的です。
- 口腔ケアの徹底
口腔内の細菌を減らすことで、誤嚥時の感染リスクを軽減します。歯科医師や歯科衛生士との連携も重要です。 - 嚥下機能の評価とリハビリ
言語聴覚士(ST)による嚥下評価や嚥下訓練の導入は、誤嚥予防に直結します。 - 食形態の工夫
ペースト食やソフト食、とろみをつけた水分など、嚥下しやすい食事形態を取り入れることで安全な摂取を支援できます。 - 姿勢の調整
食事時に顎を軽く引いた姿勢をとる、座位を安定させるといった工夫が誤嚥予防につながります。 - 全身状態の観察
特に発熱や痰の性状変化を見逃さず、早期に医師へ報告することが重症化予防に有効です。
まとめ
- 肺炎は日本人の死因の上位に位置し、高齢者では慢性疾患や防御機能低下により重症化しやすい
- 誤嚥性肺炎は嚥下機能・咳嗽反射の低下が背景にあり、再発を繰り返しやすい
- 介護・医療現場では「口腔ケア・嚥下評価・食事形態の工夫・姿勢調整・早期発見」が予防のカギ
高齢者の肺炎対策は、日々の小さな変化を捉える観察力と、多職種での連携によって成果が大きく変わります。現場での実践の一助となれば幸いです。
学びを定着させる復習に
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