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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/09/12

「在宅方針を維持するためのPEG(胃瘻)選択:栄養安定化で在宅継続が可能になったケース」

基本情報

  • 年齢・性別:95歳・女性

  • 居住地:名古屋市東区

  • 家族構成:本人と長男の二人暮らし。次男夫婦は隣家在住(キーパーソン:次男)

保険・福祉情報

  • 医療保険:後期高齢者医療(1割負担)

  • 公費:福祉給付金資格者証あり

  • 介護保険:要介護4(1割負担)

診断名

  • 心原性脳梗塞

  • 嚥下機能障害

  • 慢性心不全

  • 心房細動

  • 誤嚥性肺炎後

導入の背景

老健入所後に意識レベル低下と片麻痺が出現し、急性期治療を経てリハビリ入院へ。入院中に誤嚥性肺炎・無気肺を合併し全身状態は不安定となった。
嚥下安全性が確保できず、病院側からPEG(胃瘻)造設が提案されたが、当初は家族の希望で経口中心+在宅での栄養管理を選択し、在宅看取りも視野に訪問診療を導入した。

介入内容と経過

  • 在宅移行後、訪問診療・訪問看護で嚥下状況と栄養摂取量を継続評価。誤嚥兆候、脱水、体重推移をモニタリング。

  • 家族は極力経口を試みたが、摂取量の不足と誤嚥リスクの持続により栄養管理の限界が明確化。

  • 主治医が「在宅継続のための手段」としてPEG造設を再提案。家族と再度目標(在宅継続・安楽)をすり合わせ、合意のうえ造設を実施。

  • 造設後は胃瘻からの栄養投与で摂取が安定。脱水や誤嚥性肺炎の再燃リスクが低下し、在宅生活を安定的に継続できている。

  • 次男夫婦(隣家)と連携し、投与手順・清潔操作・トラブル時の連絡フローを共有。夜間の不安も軽減した。

医療対応の詳細

  • 嚥下機能・誤嚥兆候の評価と経口可否の見直し

  • 胃瘻(PEG)造設の提案・意思決定支援・導入後の管理(サイトケア、投与計画、詰まり・漏れ対応)

  • 心不全・心房細動の併存管理(バイタル・浮腫・体重変動のモニタリング、内服アドヒアランス確認)

  • 訪問看護との役割分担:栄養投与手順の定着、家族指導、急変時の初期対応

支援のポイント

  • 目標ベースの意思決定:在宅継続・安楽を最優先に、経口維持と安全性のトレードオフを家族と可視化。

  • PEG=延命の固定観念をほぐす:本ケースでは“在宅継続のための栄養ルート”として位置づけ、家族の心理的ハードルを低減。

  • 隣家支援を戦力化:キーパーソン(次男)を中心に、投与手順と連絡体制を平準化して不安を軽減。

  • 多職種の細かな連携:投与計画・体位・口腔ケア・便秘対策まで一体で運用し、合併症リスクを抑制。

考察

当初は「経口で最期まで」を志向していたが、在宅継続と安全性の両立には限界があった。PEGを“在宅という希望を守るための手段”に再定義したことで、栄養状態が安定し、誤嚥・脱水の再燃を抑えられた。
嚥下障害を伴う終末期・超高齢の在宅療養では、ゴール設定→選択肢の再評価→方針転換を柔軟に行える体制が鍵となる。

付記情報

  • 疾患種別:脳血管疾患・循環器疾患・嚥下障害

  • 病名:心原性脳梗塞、嚥下機能障害、慢性心不全、心房細動、誤嚥性肺炎後

  • 医療処置:胃瘻(PEG)管理

  • エリア:名古屋市東区

  • 生活環境:長男と同居、次男夫婦は隣家(キーパーソン:次男)

  • 医療負担割合:1割

  • 専門医介入:急性期・回復期・在宅の各段階で連携あり

  • 公費負担医療:福祉給付金資格者証

  • 障害者手帳・認定情報:該当なし