在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/09/12
「独居×生活保護。重症下肢虚血と服薬不安定を在宅で立て直したケース」
基本情報
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年齢・性別:80歳・女性
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居住地:名古屋市千種区
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家族構成:独居(キーパーソン:長男/市内・名東区在住)
保険・福祉情報
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生活保護
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介護保険:要介護2(1割負担)
診断名
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両下肢閉塞性動脈硬化症(PAD)
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左第1・5趾壊死(保存的加療方針)
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慢性心不全
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慢性心房細動
導入の背景
血管外科にて長期にわたり血行再建(血管内治療/大腿‐膝窩動脈バイパスなど)を受けてきた。のちに左足趾(第1・5趾)の壊死が進行し、救急受診・入院。医療的には切断の選択肢が提示されたが、本人・家族の希望で保存的治療を選択した。
退院先の調整過程で「自宅へ戻りたい」という意思が一貫して強く、訪問診療・訪問看護の体制を組み、自宅退院と同時に在宅医療を開始した。
介入内容と経過
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全身状態の縦断評価:循環・呼吸・浮腫・創部の感染徴候を定期確認。
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創部の保存的管理:壊死部の観察、感染兆候の監視、必要時の処置方針を訪問看護と共有。
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服薬アドヒアランスの再構築:もともと怠薬が目立ち増悪と再入院を反復していたため、投薬内容の見える化(お薬カレンダー/内服チェック)と声かけ頻度の最適化を実施。
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再入院‐退院の橋渡し:体調悪化時には当院入院での短期介入→在宅復帰を繰り返しながら、在宅継続の閾値を下げる運用を確立。
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生活保護との連携:移送・衛生材料等の実務面でケースワーカーと情報連携し、継続可能な在宅環境を整備。
医療対応の詳細
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下肢虚血・創部の保存的フォロー(発赤・滲出・疼痛・悪臭などの推移管理)
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心不全・心房細動の内服継続状況の点検(利尿薬・抗血小板/抗凝固・降圧薬など)
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浮腫・体重・血圧の在宅モニタリングと訪問看護からのフィードバック
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急性増悪時のトリアージ(往診/入院判断)と早期リカバリー計画
支援のポイント
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「切断回避の希望」×「在宅希望」 を尊重しつつ、感染・疼痛・ADL低下の兆候を在宅で拾い上げる運用が要。
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服薬不良は再増悪の主要因。誰が・いつ・どう確認するか を具体化し、仕組みで補うことが肝要。
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生活保護下では、医療・介護・福祉(ケースワーカー)の三位一体連携により、実務負担を軽減して在宅継続性を高められる。
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再入院を「失敗」と捉えず、在宅維持のための安全弁として位置づけ、短期で在宅に戻すフローを共有しておく。
考察
本事例は、重症下肢虚血+独居+生活保護という在宅継続のハードルが高い条件下でも、保存的治療と服薬支援の“仕組み化”、および医療‐介護‐福祉の密連携により**「本人の希望(在宅)と医療安全(悪化時の早期介入)」の両立が可能であることを示した。
とくに、アドヒアランス不良が再発悪化のトリガーであった点から、“人”に依存しない確認手段**(可視化・定期確認・役割分担)を導入したことが再入院頻度の抑制と在宅継続に寄与したと考える。
付記情報
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疾患種別:血管疾患・循環器疾患
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病名:両下肢閉塞性動脈硬化症、左第1・5趾壊死、慢性心不全、慢性心房細動
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医療処置:左第1・5趾壊死の保存的加療
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エリア:名古屋市千種区
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生活環境:独居(キーパーソン:長男/市内)
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医療負担割合:生活保護(介護1割)
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専門医介入:血管外科フォロー歴あり
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公費負担医療:生活保護(医療扶助)
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障害者手帳・認定情報:記載なし(該当不明)