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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

高齢者における呼吸機能の低下と防御機能の衰え~感染症リスクへの備え~

コラム2025/09/10

高齢者における呼吸機能の低下と防御機能の衰え~感染症リスクへの備え~

▶︎ 約6分で理解できる動画解説
「なぜ加齢で呼吸は変わる?」
https://d.kuku.lu/ahdrm5nby

高齢者ケアにおいて、呼吸器の機能低下は避けられない加齢変化のひとつです。呼吸は生命維持の根幹を担う働きであるため、その変化を理解し、日常的な観察やケアに生かすことは介護・医療職にとって重要です。今回は「呼吸機能の低下」と「防御機能の衰え」について整理します。

■ 加齢による呼吸機能の低下

高齢になると、肺活量・最大換気量・1秒量などの呼吸指標はすべて低下傾向を示します。これには複数の要因が関わっています。

  1. 呼吸筋の衰え
    横隔膜や肋間筋といった呼吸筋は加齢とともに筋力が低下し、十分な換気が難しくなります。特に咳や深呼吸が弱くなることで、痰や異物を効果的に排出できなくなります。
  2. 肺組織の変性
    肺胞壁に含まれるエラスチンやコラーゲンが増加し線維化が進むことで、肺の伸縮性(コンプライアンス)が低下します。その結果、肺胞でのガス交換効率が落ち、血液中の酸素濃度が低下しやすくなります。
  3. 動脈血ガスの変化
    高齢者では軽度の低酸素血症や二酸化炭素貯留がみられることもあり、全身の臓器機能や活動性の低下に拍車をかける場合があります。

こうした呼吸機能低下により、**「少しの動作で息切れする」「呼吸数が増える」**といった症状が日常生活の中で目立つようになります。介護職がADLの変化や呼吸様式を細かく観察することは、疾患の早期発見につながります。

■ 免疫機能や反射の働きの低下

呼吸器は常に外界と接しているため、病原体や異物の侵入にさらされています。本来、これらを排除する 防御機能 が備わっていますが、加齢とともにその機能も衰えていきます。

  1. 免疫機能の低下
    • 胸腺の萎縮によるT細胞の減少
    • マクロファージやリンパ球の機能低下
    • 抗体産生能の低下

これらにより細胞性免疫・体液性免疫の両方が弱まり、肺炎・気管支炎・結核といった呼吸器感染症のリスクが上昇します。

  1. 線毛機能の低下
    鼻腔や気道粘膜に存在する線毛は、異物を捕らえて痰とともに体外へ排出する働きを持ちます。しかし高齢になると線毛の動きが鈍くなり、異物の除去効率が低下します。
  2. 咳嗽・くしゃみ反射の鈍化
    咳反射や嚥下反射が弱まることで、異物が気道に残留しやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

■ 高齢者ケアにおける実践的視点

呼吸機能と防御機能の低下を背景に、高齢者では以下の点に注意が必要です。

  • 肺炎のリスク管理:発熱がなくても、倦怠感や食欲低下が肺炎の初期サインである場合があります。
  • 誤嚥予防:食事時の姿勢・嚥下の様子を観察し、むせや咳込みを軽視しないこと。
  • 換気・体位変換:痰がたまりやすいため、体位変換や深呼吸の促しが有効。
  • 呼吸リハビリ:口すぼめ呼吸や腹式呼吸の練習により、呼吸効率の改善が期待できます。

■ まとめ

加齢による呼吸機能の低下と防御機能の衰えは、感染症や誤嚥性肺炎の大きな要因となります。介護・医療職が日常生活の中で呼吸の変化を見逃さず、適切に医療へつなぐことが、ご利用者の健康と生活の質を守るカギとなります。

— 学びを定着させる復習に —
▶︎ 動画解説を見る(約6分)
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