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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

呼吸器の基礎理解と高齢者ケアにおける観察ポイント

コラム2025/09/03

呼吸器の基礎理解と高齢者ケアにおける観察ポイント

呼吸は生命維持の根幹をなす機能であり、呼吸器の構造と働きを理解することは、介護・医療職にとって欠かせません。とくに高齢者では、呼吸器の機能が加齢とともに低下するため、小さな異変に早く気づくことが重要です。今回は「呼吸器の構造」と「呼吸の機能・防御機能」について整理します。

上気道と下気道の構造

呼吸器は大きく 上気道 と 下気道 に分けられます。

  • 上気道:鼻腔・咽頭・喉頭
    空気の入口であり、加湿・加温・異物除去の役割を果たします。鼻腔の粘膜や鼻毛は細菌や塵を捕らえる「フィルター」として働きます。
  • 下気道:気管・気管支・肺
    空気の通り道である気管を通り、気管支が枝分かれして肺へとつながります。気管支の末端にある 肺胞 がガス交換の場であり、酸素と二酸化炭素の受け渡しがここで行われます。

肺は右に3葉(上葉・中葉・下葉)、左に2葉(上葉・下葉)があり、成人には約3億個もの肺胞が存在します。これにより、テニスコートほどの表面積が確保され、効率的なガス交換が可能となっています。

呼吸の仕組みと役割

肺そのものには自力で膨らむ機能がなく、肋間筋や横隔膜の収縮によって胸郭が動くことで換気が行われます。

  • 吸気:横隔膜が収縮して下がり、胸腔が広がる → 空気が流入
  • 呼気:横隔膜が弛緩して上がり、胸腔が狭まる → 空気が排出

このポンプ機能によって、肺胞に酸素が届き、血液中に取り込まれると同時に二酸化炭素が排出されます。酸素は肺血管から心臓へ運ばれ、心臓が全身へと循環させる仕組みです。

呼吸器の防御機能

呼吸により体内に空気を取り込むと同時に、微生物や異物も侵入してきます。呼吸器にはこれらを防御する複数の仕組みが備わっています。

  • 鼻腔の粘膜や鼻毛:異物や微粒子を捕捉
  • 気道粘膜の繊毛運動:粘液とともに異物を上方へ運搬(「粘液線毛クリアランス」)
  • 咳反射:強制的に異物を排出
  • 扁桃やリンパ組織:免疫機能を発揮し、細菌・ウイルスに対応

このように、呼吸器は単なる「空気の通り道」ではなく、外界から体を守る防御システムとしても機能しています。

 高齢者の呼吸器と注意点

加齢に伴い、呼吸器の機能は次第に低下します。

  • 肺胞の数は変わらないが、弾力性が失われガス交換効率が低下
  • 横隔膜や肋間筋の筋力低下により、換気量が減少
  • 気道粘膜の線毛運動が弱まり、異物や痰の排出が不十分に
  • 咳反射が鈍化し、誤嚥性肺炎のリスク増加

そのため高齢者では、軽い風邪や誤嚥が重篤な肺炎へ進展しやすいのが特徴です。

介護・医療職における観察ポイント

呼吸器疾患の早期発見には日常の観察が欠かせません。以下のサインに注意しましょう。

  • 呼吸数の増加(安静時でも1分間20回以上は要注意)
  • 息苦しさ、呼吸音の変化(ゼーゼー・ゴロゴロなど)
  • 痰の性状変化(量・色・臭い)
  • 会話中の息切れや声のかすれ
  • 姿勢の変化(前かがみ姿勢、起座呼吸)

特に「ちょっと動いただけで息が切れる」「夜間の咳が増えた」といった訴えは、呼吸器疾患の初期サインである可能性があります。

 まとめ

呼吸器は 酸素供給と防御 という二重の役割を担い、生命維持に欠かせない器官です。高齢者ではその機能が低下しているため、介護・医療職が小さな変化に気づき、適切に対応することが健康維持につながります。

日々のケアの中で「呼吸の観察」を意識し、早期に医療へつなげることが、ご利用者の生活の質(QOL)を守る第一歩となります。