在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/08/19
体調不良の長男が主介護者。支援サービスを増やせない状況での在宅生活の継続支援
■ 基本情報
- 年齢・性別:92歳・女性
- 居住地:名古屋市北区
- 家族構成:長男と二人暮らし。長女は要介護4で施設入所中
■ 保険・福祉情報
- 医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
- 介護保険:要介護4(1割負担)
- 公費:福祉給付金資格者証あり
■ 診断名
- 高血圧症
- 高コレステロール血症
- 認知症(進行中、意思疎通困難)
■ 導入の背景
通院はヘルパーの付き添いで近医に受診していたが、かかりつけ医が体調を崩し入院したため通院先を失った。これを契機に、ケアマネが在宅生活継続に向けて訪問診療を提案した。
主介護者である長男は体調不良を抱えながら介護を担っており、負担は非常に大きい状況であった。さらに経済的理由から介護サービスを増やすことが難しく、ケアマネも「特養入所を提案すべきか、在宅をどう支え続けるか」で葛藤していた。
しかし長男は「できる限り自宅で介護したい」との強い意向を持ち、最終的に当院で訪問診療を導入することとなった。
■ 介入内容と経過
- 月2回の定期訪問診療を実施し、皮膚状態・栄養状態・転倒リスクを重点的に評価
- 診療ごとに診療レポートをケアマネへ送付し、状態変化を迅速に共有
- 発熱や転倒など急変時には、まず長男へ連絡し、必要に応じて当院が往診や搬送判断を行う体制を確立
- 長男の体調不良時には、医師から介護の工夫を伝え、短時間でも安心感を持てるよう支援を実施
■ 医療対応の詳細
- 栄養状態や皮膚疾患の観察と処置
- 認知症進行に伴う生活動作低下への評価
- 転倒リスク管理と再発予防の助言
■ 支援のポイント
- 経済的理由でサービスを増やせない家庭には、医療側が“安心の担保”を補うことが重要
- 主介護者自身の体調が不安定な場合、介護者支援を含めた関わりが必要
- ケアマネにとって「施設入所を強く勧めるべきか否か」という葛藤が大きいケースでは、訪問診療の介入が“在宅継続の現実的な選択肢”となる
■ 考察
本事例は、在宅療養の継続が「患者本人の病状」だけでなく「介護者の健康状態」や「経済的要因」に大きく左右されることを示している。訪問診療は、患者の体調管理に加えて、介護者に対する精神的な安心の提供という側面も担っている。
施設入所を検討せざるを得ない場面であっても、在宅医療チームが関与することで在宅継続の現実的な選択肢が生まれる。今後も医療と介護が一体となって、家族ごとの状況に応じた柔軟な支援を行う必要がある。
■ 付記情報
- 疾患種別:循環器系疾患、認知症
- 病名:高血圧症、高コレステロール血症、認知症
- 医療処置:特記すべき処置なし
- エリア:名古屋市北区
- 生活環境:長男と二人暮らし、長女は施設入所中
- 医療負担割合:1割
- 専門医介入:該当なし
- 公費負担医療:福祉給付金資格者証
- 障害者手帳・認定情報:該当なし