コラム2025/08/14
見逃せないサイン~心不全と高血圧の理解と現場での対応
高齢者ケアの現場では、日常の観察や健康管理の中で「心不全」や「高血圧」という言葉を耳にする機会は多いでしょう。これらは別々の疾患に見えますが、実際には深く関わり合い、互いに悪化要因となる関係です。早期の気づきと対応が、予後や生活の質(QOL)を大きく左右します。ここでは、それぞれの病態と症状、そして介護・医療職として押さえておきたい視点を整理します。
心不全 ― 心臓のポンプ機能が低下する状態
心不全とは、何らかの原因により心臓が十分な量の血液を全身に送り出せなくなった状態です。原因としては、心筋梗塞や弁膜症、心筋症、高血圧など多岐にわたります。
初期には無症状のことも多く、症状が現れ始めるまでに数日〜数年かけて徐々に進行する場合があります。症状が安定している状態を慢性心不全、急激に悪化した状態を急性心不全と呼びます。
左心不全
- 左心室の収縮力が低下し、肺から受け取った血液を全身に送り出す能力が弱くなる
- 主な症状:動悸、倦怠感、労作時の息切れ、呼吸回数増加、咳・喘鳴
- 特徴的症状:肺うっ血による起座呼吸(横になると苦しいが、座ると楽になる)
右心不全
- 右心室が全身から血液を受け取り肺に送る機能が低下
- 主な症状:下肢や足首からの浮腫、体重増加、食欲不振、便秘、腹部膨満感、悪心・嘔吐
- 肝臓や消化管に血液がうっ滞することで消化器症状が目立つのが特徴
機能分類
- 収縮不全:心室の収縮力そのものが低下し、送り出す血液量が減少
- 拡張不全:収縮力は保たれているが、心室が十分に拡張できず血液を受け入れられない
現場での観察ポイント
- 体重の急激な増加(数日で2〜3kg以上)
- 呼吸困難の訴えや安静時の呼吸数増加
- 夜間の咳、起座呼吸の有無
- 下肢浮腫や頸静脈怒張の有無
高血圧症 ― 「静かな臓器障害」の始まり
高血圧は、血管内を流れる血液の圧力が慢性的に高い状態です。日本高血圧学会の診断基準では、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上が高血圧とされます。一方、メタボリックシンドロームの判定基準では、やや低い130/85mmHg以上が対象になります。
高血圧は自覚症状が乏しく、「サイレントキラー」とも呼ばれますが、進行すると血管壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。その結果、心不全、脳卒中、腎不全など重大な合併症を引き起こします。
日本人の高血圧の主な原因
- 塩分摂取過多:1日7〜10g程度が目安だが、実際には平均で10〜11g摂取している例も多い
- 肥満(特に内臓脂肪型肥満)
- 運動不足
- 過剰飲酒
- 慢性的なストレス
現場での対応
- 食事の塩分制限の支援(減塩調味料の活用、漬物や汁物の量調整)
- 定期的な血圧測定と記録、変動パターンの把握
- 高血圧治療薬の服薬確認と副作用のチェック
- 水分摂取量と排尿状況の確認(心不全合併時は特に重要)
高血圧と心不全の関係
高血圧は心臓に慢性的な負担をかけ、心筋を肥厚させます。これがやがて心臓の柔軟性を失わせ、拡張不全型の心不全を引き起こす大きな要因となります。また、動脈硬化の進行により冠動脈疾患が発症し、収縮不全型心不全へ移行することもあります。つまり、高血圧の適切な管理は心不全予防の最も重要な手段の一つです。
まとめ
- 心不全は左心系と右心系で症状が異なり、日々の観察が早期発見の鍵
- 高血圧は無症状でも進行し、動脈硬化や心不全、脳卒中の大きな原因になる
- 介護・医療現場では、体重変化や呼吸状態、血圧の変動に注意を払い、医療機関との情報共有を徹底することが重要
高齢者ケアでは、日々の小さな変化を見逃さず、生活習慣へのアドバイスと医療連携を通じて重症化を防ぎましょう。