コラム2025/08/06
セルフネグレクトとどう向き合うか〜“支援を拒む人”にこそ必要な「ゆるやかな関与」〜
「ドアを開けてくれない」
「サービスは全部断るけど、玄関の前にごみが積もっている」
セルフネグレクト(自己放任)は、支援を必要としているにも関わらず、本人が関わりを拒否しているように見える状態です。支援者側も「何もできない」と感じてしまいやすい、非常に難しいケースです。
制度解説:医療介入は原則同意が必要だが、“きっかけの作り方”はある
訪問診療や訪問看護は、原則として本人または家族の同意に基づく契約行為です。
ただし、市町村との連携や「健康相談としての訪問」「安否確認としての関与」など、医療職が“非診療的に”接点を持つ形で関係を築くことは可能です。
特に地域包括支援センターと連携し、福祉的アプローチ(声かけ、物資支援など)を先に行うことで、医療への橋渡しができることもあります。
導入事例:「とにかく話すだけ」で始まった訪問
82歳男性。糖尿病と高血圧があるが、通院を中断し、家の中はごみ屋敷状態。支援は全拒否。包括から相談を受けた医師が、「医療じゃなくて“近所の人”という形で行ってみようか」と短時間訪問。玄関先での立ち話からスタートし、顔を覚えてもらうことに専念。
3度目の訪問で「ちょっとだけ中に入ってもいいよ」と招かれ、その後、徐々に健康チェックや服薬の話にも応じるように。正式な訪問診療導入までに約2か月かかったが、今では「この人なら」と心を許すように。
まとめ:「支援の入り口は“関係性”」という原点に立ち戻る
セルフネグレクトの方への支援は、「制度の範囲」だけでは動きづらいものです。だからこそ、“ゆるやかに近づく”という視点が必要になります。医療者もケアマネも、「その人が人を受け入れる準備ができるまで、待ちながら関わる」ことが大切なのかもしれません。