在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/07/30
支援を拒否し続けた58歳独居男性、若年性認知症グレーゾーンと生活困窮に対する支援事例
基本情報
- 年齢・性別:58歳・男性
- 居住地:名古屋市中区
- 家族構成:独居
- 保険情報:生活保護(医療扶助)、介護保険未申請
導入の背景
近隣住民から「深夜にうろついている」「玄関が開けっぱなしで異臭がする」といった通報が相次ぎ、福祉事務所と地域包括支援センターが状況確認に入った。
本人は「自分は病気ではない」と支援を強く拒否していたが、居室内には賞味期限切れの食品、薬の残薬、ゴミの山などが散乱し、生活機能の破綻が明らかであった。
認知症の可能性が否定できず、精神疾患やアルコール関連障害も疑われたことから、医療的介入の必要性が高く、訪問診療の導入が検討された。
介入内容と経過
初回訪問時、本人は表情が硬く目を合わせようとしなかったが、医師が「困っていることがあれば話してほしい」と穏やかに話しかけることで、徐々に対話が成立。
時間・場所の認識が混乱しており、栄養状態も悪化していたため、クエチアピンを少量処方し、不眠と不安症状の緩和を図った。
訪問看護と連携し、服薬カレンダーによる内服支援や、簡易的な環境整備(清掃・換気など)を段階的に導入していった。
支援のポイント
- 診断未確定でも、生活困窮と精神症状を併せ持つ事例には早期介入が重要
- 支援拒否の背景には、被支援経験の少なさや不信感があるため、信頼関係の構築を第一に
- 医療・福祉の連携により、生活支援と心理的安定の両輪で介入することが効果的
考察
若年層かつ独居・生活保護受給という社会的孤立の強い背景に加え、認知機能低下や精神症状を抱えることで、本人は支援そのものを“リスク”と感じていた。
そのため、本事例では「診断の明確化」よりも、「安心できる人との関係構築」が初期フェーズの鍵となった。
訪問診療という手段を通じて、日常に“見守る存在”を届けることで、閉ざされた生活と社会との接点を再びつなぎ直すことができた。
制度の隙間にこぼれ落ちがちなこのようなケースにおいてこそ、多職種の柔軟な連携が重要となる。
付記情報
- 疾患種別:精神疾患・認知症疑い・依存症関連
- 病名:認知症疑い(未確定)、アルコール関連障害
- 医療処置:訪問診療にてクエチアピン処方。処置・点滴なし
- エリア:名古屋市中区
- 生活環境:独居、支援拒否、近隣からの通報複数、生活破綻状態
- 医療負担割合:生活保護(医療扶助)
- 専門医介入:精神科未介入(今後検討)
- 公費負担医療:あり(生活保護)
- 障害者手帳・認定情報:なし