MENU

医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/07/30

不安で何度も救急要請、介護者一家も限界に…。生活の安定と家族の再構築を支えた在宅医療

基本情報

  • 年齢・性別:86歳・女性

  • 居住地:名古屋市守山区

  • 家族構成:独居(キーパーソン:市内在住の甥の長男夫婦)

  • 保険情報:後期高齢者医療(1割)、福祉給付金資格者証あり、要介護3(1割)


導入の背景

長年、ひとり暮らしを続けていたが、数年前より軽度の認知症と不安症の症状が見られるようになった。
「息苦しい気がする」「誰かが家に入ってきた」といった夜間の訴えによって、月に数回の救急要請が発生。いずれも医学的には急変ではなく、心理的な不安が主な原因であった。

主介護者は甥の長男であったが、実際のケアはその妻(30代)が担っており、義理の関係や介護未経験から距離感や精神的負荷が強くなっていった。
ついに妻が適応障害と診断され入院、夫も早期退職を余儀なくされるという状況に至り、「このままでは家庭が崩壊する」との訴えがケアマネより寄せられ、訪問診療の導入に至った。


介入内容と経過

訪問診療では、不安感や息切れ感への訴えに対して、こまめなバイタル確認と内服調整を実施。
また、夜間の体調不良訴えが多かったため、訪問看護ステーションと連携し、定期的な夜間フォロー体制を整備した。

診療時には認知症ケアに慣れた女性医師が対応し、過去の生活歴に寄り添った会話により信頼関係を築いた。
本人の「どうせ私は迷惑ばかり」という口癖に対しては、継続的な肯定的声かけを行い、不安の頻度は次第に減少した。

介護者には以下の支援を実施:

  • 高額療養費制度や医療費控除の案内

  • 訪問診療による通院・送迎負担の軽減効果を明示

診療ごとの報告書送付により、ケアマネとの情報共有も円滑となり、精神的・実務的な負担軽減が顕著に見られた。


支援のポイント

  • 夜間の訴えが多い不安症・軽度認知症の高齢者には、在宅医療と訪問看護の連携が極めて有効

  • 義理の若年介護者が担う場合、心理的な孤立や制度理解の乏しさが負担に直結しやすく、外部支援の適切な導入が必要

  • 家族機能の限界を迎える前に、医療職の介入により負担の可視化と分散を図ることが重要


考察

本事例は、疾患そのものよりも介護者の精神的・社会的負荷が限界に達していたことが主たる課題であった。
義理の家族、若年介護者、独居高齢者に共通する「支援の届きにくさ」を可視化し、医療・看護職が介入することで、本人の体調安定とともに、家族の生活再建を支援することができた。
在宅医療とは単に本人の治療を行う手段ではなく、「支える人の生活を壊さない医療」であるという視点が求められる。


付記情報

  • 疾患種別:慢性疾患・精神心理症状

  • 病名:高血圧、高脂血症、骨粗しょう症、認知症(軽度)、間質性肺炎、不安症

  • 医療処置:訪問診療にて内服調整・バイタル確認(点滴・処置なし)

  • 生活環境:独居、救急要請が頻回、若年の義理家族が主介護者

  • 医療負担割合:1割(福祉給付金資格者証あり)

  • 公費負担医療:あり

  • 専門医介入:精神科通院歴あり(入院歴なし)

  • 障害者手帳・認定情報:なし