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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

高齢者における心臓・血管・血液の加齢変化とその臨床的意義

コラム2025/07/30

高齢者における心臓・血管・血液の加齢変化とその臨床的意義

高齢者ケアでは、日々の観察とあわせて、加齢に伴う身体の変化を系統的に理解することが求められます。なかでも、循環器系の変化は、病気の兆候を見逃さないためにも重要です。

今回は、心臓・血管・血液における代表的な加齢変化を取り上げ、現場での実践につなげる視点で整理します。

心臓の加齢変化

加齢とともに心臓にも構造的・機能的な変化が生じます。
特に以下のような変化には注意が必要です。

  • 心筋の線維化・弾力低下により、心室の拡張機能が落ちやすくなる
  • 心腔の拡大・心肥大により、拡張障害や拡張型心筋症のリスクが増加
  • アミロイドやリポフスチンの沈着により、心臓の柔軟性が損なわれる

また、**心臓弁(僧帽弁・大動脈弁)**の石灰化や肥厚が進行すると、弁膜症(大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症など)につながる可能性があります。

加えて、左心房・右心房の拡大による「機能性弁膜症」、洞房結節や房室結節の加齢変性により起こる不整脈や徐脈も高齢者に多くみられ、ペースメーカーが必要となるケースもあります。

血管の加齢変化と血圧への影響

動脈も加齢とともに厚く・硬くなり、弾力を失います。
この変化は以下のような臨床的意義を持ちます。

  • 脈波伝播速度(PWV)の上昇:動脈硬化の進行を示す重要な指標
  • 血圧パターンの変化:収縮期血圧(SBP)が高く、拡張期血圧(DBP)が低くなり、**脈圧(SBP−DBP)**が拡大
  • 血圧変動性の増加:起立性低血圧や高血圧性脳症などのリスク要因に

また、静脈弁の機能低下や下肢の筋力低下により、下肢の浮腫・静脈瘤が増えることも、歩行やADLに影響を与える要素です。

血液成分の加齢変化

血液の構成要素にも年齢による変化が現れます。

  • 赤血球数・ヘモグロビン値の減少:高齢者では軽度の貧血が一般的にみられます。栄養不足、慢性疾患、腎機能低下などが背景にあり、フレイルや認知機能低下にも関与します。
  • 白血球数の低下・リンパ球機能の低下:免疫力の低下を招き、感染症リスクが高まります。
  • 血小板数は比較的安定しているものの、薬剤や骨髄機能の影響で変動することもあります。

まとめ

心臓・血管・血液に起こる加齢変化は、目に見えにくい一方で、高齢者のQOLや疾患リスクに直結する重要な変化です。

介護や医療に携わる私たちは、こうした変化の背景を理解し、日々の観察の中で兆候に気づく視点を持つことが大切です。
バイタルサインや行動のちょっとした変化を「いつものこと」と見過ごさず、加齢変化の理解をもとに、早期の気づきと対応を積み重ねていきましょう。