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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

「その人らしい最期」を支える看取りのケア

コラム2025/06/30

「その人らしい最期」を支える看取りのケア

看取りという言葉を聞くと、多くの人が「死」や「お別れ」の場面を思い浮かべるのではないでしょうか。
けれど、私たち医療や介護の現場で日々感じるのは、看取りの時間が“悲しみ”だけでなく、“やすらぎ”や“感謝”にも満ちているということです。
看取りは、単に「最期を見届ける」ことではなく、「その人らしく最期まで生きる」ことを支えるプロセスです。

 昔は「自宅での最期」が当たり前だった

かつては多くの人が、自宅で家族に囲まれながら息を引き取っていました。

しかし医療の進歩とともに、病院での治療が主流になり、「死」は“特別な空間”の中で、“専門職にゆだねるもの”へと変化しました。

一方で、近年では改めて「自宅で最期を迎えたい」「家族と静かに過ごしたい」という希望が増えています。

実際に厚生労働省の調査でも、「最期を迎えたい場所」として“自宅”を挙げる人が全体の半数以上を占めています。

 看取りとは“命の終わり”ではなく“人生の最終章”

私たちが考える看取りとは、「死にゆく過程をただ見守る」のではありません。
看取りの時期とは、ご本人の価値観や想いを尊重しながら、「最期まで生ききる」ことを医療・介護・家族が一丸となって支える時間です。

たとえば——

  • 「静かに音楽を聴きながら過ごしたい」
  • 「最後まで孫の声を聞きたい」
  • 「病院ではなく、自分の布団で眠りたい」

こうした“ささやかな願い”を叶えることが、看取りにおいては最も大切なケアとなります。

 自宅での看取りを支える仕組み

「家で看取るのは不安」「医療的なことが心配」——こうした声もよく聞きます。

ですが、現在では訪問診療・訪問看護・地域包括支援体制など、在宅での看取りを支える仕組みが整ってきています。

  • 医師による24時間対応の訪問診療体制
  • 看護師によるバイタルチェック、苦痛緩和、点滴などのケア
  • ケアマネジャーによる介護サービス調整
  • 福祉用具の手配や環境整備
  • 死後の対応(死亡診断書の発行、葬儀連携)

こうした多職種が一体となり、ご家族の負担を最小限にしながら、穏やかな看取りを実現します。

 ご家族が得られる“納得”と“感謝”

看取りを経験されたご家族からは、「穏やかな表情で旅立ててよかった」「本人の望みを叶えられたと思う」といった声をよく伺います。
亡くなった後も、ご家族がその時間を“後悔”ではなく“納得”として受け止められることが、グリーフ(悲嘆)を和らげる大きな力になります。

まとめ

看取りの現場では、ご本人の想いやご家族の希望にできる限り寄り添いつつも、限られた人手や時間、体制の中での対応が求められます。
すべてが理想通りにいくわけではありませんが、それでも「できる範囲で、その人らしい最期を支えたい」と考える支援者の想いが、日々のケアを支えています。

看取りとは、「最期まで生きること」を支える時間。
その過程には、不安や葛藤もありますが、だからこそ支援のあり方が問われる時間でもあります。

大切なのは、完璧を目指すことではなく、現場に即した現実的な支援を積み重ねていくこと。
医療・介護の専門職として、限られた環境の中でも、少しでも穏やかな時間を届けられるよう努めていきたいものです。