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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/24

同居家族の介護力に限界がある中で、訪問診療を選択した統合失調症合併例

■ 基本情報
年齢・性別:81歳・女性
居住地:名古屋市守山区
家族構成:本人・夫・長男・長男の妻との4人暮らし(キーパーソンは長男)
保険・制度:後期高齢者医療保険(1割負担)、要介護3

■ 訪問診療導入の経緯
本人は左大腿骨頸部骨折後、リハビリ病院へ入院していた。退院後には通所リハビリの利用が計画されていたが、もともと本人の拒否が強く、サービス利用の継続は困難であろうと長男は早い段階から予測していた。

同居している夫にも物忘れがみられ、介護保険申請中ではあるものの、介護力としては期待できない状況であり、結果的に長男がほとんどのケアを担う構造となっていた。

通院が継続できるかどうかに加えて、退院後の内服管理や食事面のサポートが必要であることも明らかであり、在宅療養を支える体制構築が課題となっていた。

「このままでは長男の介護負担が過度になり、持続可能な支援体制が崩れる」との見立てから、訪問診療の導入が最適であると判断。ご家族の合意を得て、当院による介入を開始した。

■ 介入内容と経過
訪問診療開始後は、長男との連携を密にしながら、主治医としての役割を果たすと同時に、医療的な不安に即応できる体制を構築。本人の精神的な不安定さを考慮し、訪問時には丁寧な対話と信頼関係の構築に努めた。

通所サービスの利用はやはり困難であったが、訪問診療による医療継続と、訪問看護やケアマネとの連携により、在宅療養生活は安定的に継続されている。

■ 医療対応の詳細
主病・健康課題:左大腿骨頸部骨折、統合失調症
対応方針:通院困難と介護負担の集中を鑑みた訪問診療体制の構築
実施内容:定期訪問診療、服薬支援、精神状態のモニタリング、家族支援

■ 支援のポイント
本人の通院拒否が見込まれる段階での早期判断
家族からの「無理だと思う」という声に向き合い、在宅支援への転換をスムーズに行った。

家族構成と介護力を見越した支援設計
夫の認知機能低下をふまえ、長男だけに負担が偏らないよう、訪問診療を含む支援体制を整備した。

統合失調症合併例への柔軟な対応
精神疾患を背景に持つ本人に対し、押しつけではなく受容的な医療関係を築き、在宅生活を支えた。

■ 考察
本事例は、医療や介護の必要性だけでなく、「家族がどれだけ支えられるか」という介護力の限界を見極めた上で支援方針を決定した好例である。

とくに精神疾患を併発する高齢者では、医療機関への通院やサービス利用のハードルが高くなることが多いため、訪問診療という形で「家にいることを前提とした医療」を早期に導入する意義は大きい。

今後の地域包括ケアにおいても、本人の病状だけでなく、家族の実行可能性をふまえた支援設計が重要であることを示す症例である。

■ 付記情報
病名:左大腿骨頸部骨折、統合失調症
生活環境:本人・夫・長男・長男の妻との4人暮らし
医療処置:服薬管理支援、精神状態の経過観察
エリア:名古屋市守山区
負担割合:医療1割・介護1割