MENU

医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/24

認知症疑いと生活困難を背景に、夫婦同時の特養入所に至った在宅支援の一例

■ 基本情報
年齢・性別:67歳・男性
居住地:名古屋市中川区
家族構成:妻との二人暮らし(妻も要介護状態)
保険・制度:国民健康保険(3割負担)、要介護1(1割負担)


■ 訪問診療導入の経緯
もともとは高血圧などでAクリニックへ通院していたが、次第に通院が不定期となり、処方薬も中断することがあった。2022年頃から不定愁訴と抑うつ傾向がみられ、心療内科で漢方治療を受けていたが、継続的な受診には至らなかった。

2024年1月、路上で倒れているところを発見され、A病院へ救急搬送。入院後、特に急性期的な対応を必要とせず、2日後に退院。退院後の在宅フォロー体制が必要と判断され、2024年3月より当院で訪問診療を開始した。


■ 介入内容と経過
訪問開始当初から中等度以上の認知機能低下が見られ、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)は12/30点であった。服薬や生活状況の聞き取りも困難な場面があり、本人の理解力や判断力の低下が明らかであった。

また、妻も要介護状態であり、二人だけの生活では食事・服薬・衛生面の自己管理が難しい状況が続いていた。

血圧が非常に高く、アムロジピン10mgを新たに処方し、内服状況や数値の変化に応じて調整を継続した。飲酒習慣も根強く、肝機能異常の背景にアルコール多飲が疑われたため、節酒の約束を交わしたうえで不眠への対処としてデエビゴを開始した。

当初は在宅療養の継続を目指したが、介護力の限界が明確になり、最終的には夫婦ともに特別養護老人ホーム(特養)へ同時入所となり、訪問診療は終了した。


■ 医療対応の詳細
主病・健康課題:認知症の疑い、高血圧症、脂質異常症、肝障害、アルコール多飲、不眠症
対応方針:認知症の進行と生活困難をふまえ、薬物調整と生活支援を組み合わせた在宅支援を実施
実施内容:高血圧薬・睡眠薬の新規処方と調整、生活状況の観察・助言、介護力の限界を踏まえた施設連携


■ 支援のポイント
認知機能低下に対する早期の生活フォロー
HDS-R評価により中等度以上の認知症が示唆された段階から、服薬管理や日常生活支援に力点を置いた対応を行った。

二人介護困難ケースにおける限界判断と施設連携
本人だけでなく配偶者も要介護状態であったため、在宅療養には明らかな限界が存在し、介護力評価をふまえて施設入所へと適切に移行した。

飲酒・不眠・生活習慣の改善支援
根強い飲酒習慣と生活リズムの乱れに対して、節酒指導と併せて薬物療法による睡眠支援を行い、生活安定を図った。


■ 考察
本事例は、比較的若年(67歳)であっても認知機能の低下と生活困難が複合することで、早期に施設介入が必要となるケースの一例である。

在宅での医療的介入を通じて、生活状況の把握と支援の限界を早期に見極めることができ、結果的に本人と家族双方の負担軽減につながった。訪問診療は、「在宅で暮らし続けること」だけを目的とせず、「暮らしの選択肢を整える支援」としても重要な役割を担っている。


■ 付記情報
病名:認知症の疑い、高血圧症、脂質異常症、肝障害、アルコール多飲、不眠症
生活環境:妻と二人暮らし(ともに要介護状態)
医療処置:なし(服薬調整のみ)
エリア:名古屋市中川区
負担割合:医療3割・介護1割