在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/16
関節リウマチ治療のバランスと家族の理解が鍵となった独居高齢者の在宅支援
■ 基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市瑞穂区
家族構成:本人独居(夫は施設入所中)。長男は東京在住、次男(キーパーソン)は市内在住
保険・制度:後期高齢者医療保険(1割負担)、要介護3(1割負担)、福祉給付金資格者証あり
■ 訪問診療導入の経緯
2024年1月に発熱・腹痛で救急搬送され、右腎盂腎炎と診断。尿管ステント・尿道カテーテル留置、抗菌薬治療を受けた後、リハビリ目的で包括病棟に転院となった。
慢性関節リウマチに対しては以前、生物学的製剤の使用歴があったが、重症感染症の再発を繰り返したため、現在はPSL5mgのみの治療に。今後さらに減量の検討もあり、疼痛管理を含め治療方針の調整が必要であった。
本症例の本質は、リウマチ治療の積極性と感染リスクのバランスをどう取るかに加え、その選択を家族がどこまで受容・理解できるかという点にあった。
通院継続を前提に近隣の整形外科クリニックでの診療も併用予定であったため、訪問診療の必要性自体も検討対象であったが、退院前カンファレンスにてご家族の理解と支援意向が確認できたことから、退院と同時に訪問診療を導入した。
■ 介入内容と経過
医療的対応:
疼痛と炎症コントロールのため、PSLとワントラムを当院で継続処方。整形外科通院と並行しながら、症状や副作用の変動に応じた柔軟なフォローを行った。カテーテル管理も含め、感染予防に留意した対応を継続。
療養支援:
独居という生活環境をふまえ、日常生活の困難やADL低下に関する情報を訪問看護と共有し、在宅サービスの調整を行った。ご家族(次男)との連携も密に取り、変化時にはすぐに対応できる体制を整備した。
経過:
訪問診療開始から1年3ヶ月が経過。途中で数回の入退院を挟んだが、大きな悪化はなく、現在も安定した在宅療養を継続中。
■ 医療対応の詳細
主病・健康課題:慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、骨粗鬆症、圧迫骨折(Th11, L2, L4)、脊椎側彎症、子宮脱
対応方針:リウマチ治療の副作用と疼痛のバランスを取りつつ、感染管理と生活支援を重視した対応を実施
実施内容:ステロイド・鎮痛薬の調整、膀胱留置カテーテル管理、訪看・通院との連携支援
■ 支援のポイント
家族の理解と意向に応じた在宅導入の判断
治療方針に迷いがある中でも、退院前のカンファレンスで家族の支援姿勢が確認できたことが、在宅導入の後押しとなった。
感染と疼痛の両立という医療的ジレンマへの対応
生物学的製剤による治療再開は見送り、疼痛コントロールを優先する選択を支持。副作用と症状の折り合いをつける医療設計を行った。
生活支援体制と通院併用の両立
独居でありながら、通院と訪問診療を併用することで、安全性と柔軟性を両立した療養体制を整備した。
■ 考察
この事例は、積極的治療による副作用リスクと、消極的治療による症状悪化とのはざまで選択を迫られる高齢患者において、家族の理解と支援意向が在宅医療導入の鍵となることを示している。
在宅医療の導入は、単に医療機能の提供ではなく、患者と家族が治療の「落とし所」をどこに置くかを共に考える機会でもある。医療の専門性に加え、意思決定支援の視点がより重要となることを示唆する事例である。
■ 付記情報
病名:慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、骨粗鬆症、圧迫骨折(Th11, L2, L4)、脊椎側彎症、子宮脱
生活環境:本人独居(夫は施設入所)、キーパーソンは市内在住の次男
医療処置:膀胱留置カテーテル管理、PSL・ワントラムの継続処方、整形外科通院併用
エリア:名古屋市瑞穂区
負担割合:医療1割・介護1割