MENU

医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

認知症の徘徊と事故防止 ― 現場からできる実践的な備えとは?

コラム2025/06/12

認知症の徘徊と事故防止 ― 現場からできる実践的な備えとは?

認知症の進行に伴い、「徘徊」行動が見られることは少なくありません。これはただの迷子ではなく、時に命に関わる重大な事故へとつながるリスクを孕んでいます。

警察庁が2024年に発表した統計では、認知症が原因で行方不明となった高齢者は1万8121人、そのうち491人が死亡しています。死亡者の半数以上は河川敷や山林など捜索困難な場所で発見され、逆に約8割は自宅から5キロ圏内で見つかっているという事実からも、地域と連携した迅速な初動対応の重要性がわかります。

現場で取り組める事故防止の工夫

■ 徘徊リスクの早期把握と情報共有

  • 徘徊の傾向がある方については、ケア記録や申し送りで**「時間帯・状況・行動パターン」**を具体的に共有。
  • 家族・地域の支援者とも情報を連携し、予測できる徘徊行動を可視化します。

■ GPS機器など見守りツールの導入支援

  • 靴・杖・衣服に組み込めるタイプなど、本人の抵抗感に配慮した提案が効果的。
  • 「監視」ではなく「安心のためのツール」として、本人と家族の理解と合意形成を丁寧に行うことが大切です。

■ 地域との連携で“顔の見える支援”を

  • 地域包括支援センターや民生委員、防災・自治体職員との定期的な意見交換を通じて、地域ぐるみの見守り体制を築きます。
  • 「もし徘徊が起きたら」の連絡体制や対応マニュアルの事前整備が鍵になります。

■ テクノロジーと観察力の併用

  • AI付き防犯カメラやドローン捜索などの技術活用は今後さらに進むと期待されます。
  • ただし最も重要なのは、日常の小さな違和感に気づく現場力。日々の観察が、初動を左右します。

まとめ

認知症の方の徘徊には、「なじみの場所に戻りたい」「誰かを探している」などの思いや不安が背景にある行動が多く見られます。だからこそ、徘徊を“危険な行動”とだけ見るのではなく、「何を伝えようとしているのか?」と受け止める視点が重要です。

事故の未然防止は、一人ではなくチームで、地域で取り組むものです。
小さな違和感に気づき、動く力こそが、大切な命を守ることにつながります。

参考資料

  • 警察庁「令和6年 認知症による行方不明者に関する統計」(2024年6月5日発表)
  • Joint編集部「認知症高齢者の行方不明者統計と対策」記事より要約・抜粋