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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/11

外陰がん再発・転移を有する93歳女性|医療処置を行わず在宅で看取った終末期支援事例

■ 訪問診療導入の経緯

数年前より外陰部に腫瘤を認め、近隣の医療機関で「外陰がん」と診断された後、局所切除による治療を受けていた。
経過観察中に再発が確認され、腫瘍は拡大傾向を示し、下部尿道や肛門周囲への圧排を伴う状態となった。左鼠径リンパ節および肝への転移も疑われていた。
病院では放射線治療の選択肢も提示されたが、本人の年齢や全身状態、そして本人および家族の意向をふまえ、「これ以上の積極的治療は行わず、自宅で穏やかに過ごす」方針となった。
認知機能の低下もあり、ご本人には病状の詳細を告知せず、疼痛緩和を主とした在宅緩和ケアを目的に訪問診療を導入した。

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■ 介入内容と経過

在宅療養開始後は、本人の表情・呼吸の変化やご家族からの細やかな報告を基に、医療的処置を伴わない日々の観察と対話を中心とした支援を行った。
生活環境を整えながら、過度な介入を避けつつ、苦痛の少ない在宅時間を維持することに重点を置いた。
キーパーソンである長男の妻は、初めての介護経験で不安を抱えながらも「自宅で看取りたい」という意志を持ち、訪問診療チームとの連携のもと支援を継続した。

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■ 医療対応の詳細

主病・健康課題:外陰がん(局所再発)、鼠径リンパ節転移、肝転移の疑い、高血圧症、骨粗鬆症
対応方針:医療的処置は実施せず、病状説明も控え、緩和ケア中心の訪問診療体制を構築
実施内容:対症的観察、生活支援、苦痛への配慮、ご家族との連携を通じた終末期支援

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■ 支援のポイント

本人・家族の希望を基軸とした医療方針の明確化
 本人・家族ともに「自宅で穏やかに過ごしたい」との意向を持っており、それを尊重した非治療的・緩和的介入を選択した。
介護初心者である家族への支援と心理的負担の軽減
 キーパーソンである長男の妻への丁寧な関わりと情報共有を通じて、無理のない在宅介護を支えた。
無処置方針下でも訪問診療が果たす役割の明確化
 医療的行為を行わないケースにおいても、日常的な観察・声かけ・安心感の提供が本人および家族にとって大きな支援となった。

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■ 考察

本事例は、明確な終末期において、医療処置を行わずとも本人の「家にいたい」という意思を支えることが、訪問診療の大きな役割となりうることを示している。
治療の中止が「医療の終わり」ではなく、「寄り添い続ける医療」の始まりであるという認識のもと、医療・介護・家族が同じ方向を向いた支援体制が成立した。
本人の希望を中心としながら、家族の実行可能性をふまえた支援を構築することが、今後の在宅緩和ケアにおいても重要な視点である。

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■ 付記情報

病名:外陰がん(局所再発)、鼠径リンパ節転移、肝転移の疑い、高血圧症、骨粗鬆症
生活環境:長男夫婦と3人暮らし(キーパーソンは長男の妻)
医療処置:医療処置なし、対症的観察、生活支援、終末期ケア
エリア:名古屋市西区
負担割合:医療1割・介護1割