MENU

医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/09

外傷性脊髄損傷による重度介護状態の76歳男性|在宅でのリハビリ継続と医療支援を統合した訪問診療事例

■ 基本情報

  • 年齢・性別:76歳・男性

  • 居住地:名古屋市守山区

  • 家族構成:妻・長男と同居。長女と孫も一時的に同居し介護を支援。

  • 保険・制度:後期高齢者医療(2割負担)、要介護5(1割負担)、福祉給付金の対象


■ 導入の背景

趣味の登山中に転倒し、外傷性脊髄損傷を発症。以後、身体機能の著しい低下により、ADLのほとんどに介助が必要な状態となった。
T記念病院にてリハビリテーションを継続していたが、関節拘縮の進行により、車椅子移乗には常時2名以上の介助が必要であり、座位保持も困難となった。
現在はベッド上での生活が中心であり、食事はペースト状のものを全介助で摂取。嚥下機能にも注意が必要な状況である。
一方で、認知機能は保たれており、本人は「体を動かし続けたい」「リハビリはあきらめたくない」という明確な意志を持ち続けていた。


■ ご家族の意向と導入の経緯

これまで、リハビリはT記念病院での外来通院、医療は他院による訪問診療といった分離した体制で支援が行われていた。
ご家族より、「医療とリハビリを一体化した、連携の取れた在宅支援体制にしたい」との相談があり、通院による負担や情報連携の煩雑さを軽減する必要があった。
本人の意志とご家族の負担軽減の両方をふまえ、当院にて訪問診療を中心とした包括的な支援体制を再構築。訪問看護・訪問リハビリ・福祉用具の調整を含め、多職種連携による在宅支援が開始された。


■ 介入内容と経過

  • 医師・訪問看護・訪問リハビリによる多職種での連携支援を実施

  • 座位保持困難な状態に対し、ベッド上での関節拘縮予防および呼吸リハビリを継続

  • 栄養状態と嚥下機能のモニタリングを行い、口腔ケアと栄養支援を併用

  • ご家族への介助指導や、福祉機器導入に関する相談にも随時対応


■ 医療対応の詳細

  • 主病:外傷性脊髄損傷(発症後のADL全面介助)

  • 生活状況:座位保持困難。ペースト食を全介助で摂取。呼吸機能低下・嚥下注意。

  • 対応方針:訪問診療を軸としたチーム支援体制を整備。関節拘縮・誤嚥・栄養低下・褥瘡等を予防的に管理し、在宅生活の維持とQOLの確保に努めている。


■ 支援のポイント

  • 医療・看護・リハビリの多職種による連携体制
     分離していた通院リハビリと医療支援を一本化し、在宅で完結する体制へと再構築した。

  • ご本人の意志を中心に据えた支援設計
     本人の「リハビリを継続したい」という強い意志をふまえ、身体状況に応じた実現可能な支援内容を具体化。

  • ご家族の負担軽減に向けた支援調整
     介助技術の指導や、福祉用具の選定・導入支援を通じて、介護負担の軽減と継続可能な在宅支援体制を構築。


■ 考察

本事例は、重度の身体障害を有する患者に対し、本人の意志とご家族の負担の両面に寄り添った形で訪問診療を再設計したケースである。
医療と介護・リハビリを分断せずに一体化することで、本人のQOLを尊重した生活設計が可能となった。
在宅医療においては、症状管理だけでなく、「どのように暮らすか」の視点で支援体制を設計することが求められており、本症例はその実践例である。