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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/06

膀胱瘻・腎瘻・人工肛門造設後の独居女性|短期間の訪問診療で在宅生活を支援した事例

■ 基本情報

  • 年齢・性別:80歳・女性

  • 居住地:名古屋市東区

  • 家族構成:独居(長女は県外在住)

  • 保険・制度:生活保護受給中。介護保険申請中


■ 導入の背景

2010年に外陰パジェット病と診断されて以降、再発と切除を繰り返してきた。局所再発は膀胱・尿道・腟内に及び、形成された尿道口内に腟が開口することで膀胱尿の流出を認める状態にあった。
その後、尿閉により膀胱瘻と片側腎瘻を造設。さらに腸閉塞に伴い人工肛門造設も施行された。
独居であり、頻回な通院が困難であったことから、2024年2月初旬に訪問診療が導入された。


■ 介入内容と経過

訪問診療導入後は、膀胱瘻・腎瘻・人工肛門の管理を中心とした医療的ケアを自宅で実施しつつ、疼痛緩和と全身状態の観察を継続した。
導入から約2週間後、下肢リンパ節の腫大および膀胱瘻周囲の腫脹が確認され、A病院への搬送となった。
その後、県外在住の長女宅での終末期ケアに方針が転換されたため、当院での訪問診療は終了となった。
短期間での支援であったが、本人が「一度自宅で独り暮らしを試みたい」と希望していたことを受け、その実現を支援する形となった。


■ 医療対応の詳細

  • 主病:左足底悪性黒色腫

  • 既往歴:外陰パジェット病(2010年診断)、気管支喘息、高血圧

  • 病状経過:膀胱内・尿道・腟内への病変進展が疑われ、出血コントロールのため輸血を実施。骨盤内および多発リンパ節腫大が確認され、浸潤癌への転化および全身転移が進行中であった。

  • 対応方針:症状緩和を重視し、将来的には両側腎瘻造設や局所放射線照射などの緩和的治療を検討していた。


■ 支援のポイント

  • 本人の意思の尊重:自宅での生活を希望する本人の意向を受け、医療的に可能な範囲で支援を実施した。

  • 医療的処置の在宅管理:膀胱瘻・腎瘻・人工肛門といった高度な処置を在宅下で継続的に管理した。

  • 関係機関との情報連携:家族・基幹病院・支援機関との密な情報共有により、短期間であっても途切れのない医療移行が可能となった。


■ 考察

本事例は、独居かつ生活保護受給という社会的条件のもとでも、適切な医療介入と意思決定支援を組み合わせることで、本人が一時的に自宅での生活を経験することが可能となった例である。
終末期の在宅支援においては、疾患管理のみならず、本人の価値観や生活希望に応じた柔軟な支援体制の構築が重要であることを示している。
在宅医療の導入によって、「どこで過ごすか」という問いに対して選択肢を増やせる可能性があることが再確認された。