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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/06

膀胱癌・胃癌を有する87歳男性|本人の希望に沿った在宅看取りの実施例

■ 基本情報

  • 年齢・性別:87歳・男性

  • 居住地:名古屋市北区

  • 家族構成:妻と同居。長男(名古屋市西区在住)、長女(福岡県在住)

  • 保険・制度:後期高齢者医療制度(2割負担)、介護保険未申請(1割負担予定)。医療費や家賃の負担が大きく、制度利用には心理的・実質的ハードルがあった。


■ 導入の背景

本人は膀胱癌・胃癌・肺結節など複数の悪性疾患を抱えており、徐々に食欲低下・気分不良・体重減少といった症状が進行していた。画像検査により病状の悪化が確認され、医療方針は緩和的対応が望ましいと判断された。
このような状況の中、妻が地域で開催されたケアマネジャー向け相談会に参加したことをきっかけに、医療・福祉関係者への情報共有が行われ、訪問診療を含む在宅支援へとつながった。


■ 介入内容と経過

初回訪問診療は長男夫婦も同席のもとで実施され、以降は在宅での看取りを見据えた支援が開始された。本人は積極的治療を希望せず、「苦痛なく家族と過ごしたい」という意向を明確に示していた。
診療では疼痛コントロールを中心に対応しつつ、本人・家族双方に対して丁寧な説明を継続した。特に理解に課題があった妻に対しては、繰り返し情報を整理して共有する支援が行われた。
最終的には、ご家族が見守るなか、自宅にて穏やかに最期の時を迎えることができた。


■ 医療対応の詳細

  • 主病・既往歴:膀胱癌(経過観察中)、胃癌(内視鏡治療後)、右肺上葉の小結節(経過観察)

  • 終末期の所見:癌性胸水、肝転移、門脈浸潤、腹膜播種、リンパ節転移が疑われ、黄疸や下肢浮腫も確認されていた。

  • 対応方針:本人の意思に基づき、緩和ケアに移行。症状の観察と疼痛緩和を中心としつつ、家族への説明と精神的支援にも注力した。


■ 支援のポイント

  • 本人の意思の尊重:本人の「自宅で最期まで過ごしたい」という希望を支援方針の軸とした。

  • 家族への心理的支援:特に妻に対して、丁寧かつ反復的な説明を通じて理解と安心を促した。

  • 制度支援の調整:介護保険申請の準備や医療制度の説明を行い、経済的不安の軽減に努めた。

  • 多職種による短期集中支援:ケアマネジャー・相談員・訪問看護師と連携し、短期間ながらも切れ目のない在宅支援体制を整備した。


■ 考察

本事例は、経済的制約や家族の理解に課題を抱えながらも、本人の明確な意志に基づき在宅での看取りを実現できた例である。
終末期の在宅支援においては、医療的判断だけでなく、家族の精神的支援、制度活用の調整など、複合的なアプローチが不可欠であることを示している。
本人の希望を軸に、医療・制度・家族関係の三要素を調整しながら支援を行う重要性が再確認された。