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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

在宅医療の事例紹介(個人宅)2025/06/04

「関節リウマチ治療の選択と在宅支援のバランス:感染リスクと疼痛コントロールのはざまで」

基本情報
年齢・性別:83歳・女性
居住地:名古屋市瑞穂区
家族構成:本人は独居。夫は施設入所中。長男は東京都在住、次男(キーパーソン)は市内在住。


保険・福祉情報
医療保険:後期高齢者医療保険(1割負担)
介護保険:要介護3(1割負担)
福祉給付金資格者証あり


導入の背景
本人は慢性関節リウマチをはじめとする複数の慢性疾患を有しており、疼痛のコントロールが日常生活に大きく影響していた。急性増悪として発熱・腹痛を主訴に救急搬送され、腎盂腎炎と診断。尿路管理のためのステント留置後、リハビリ目的で転院となったが、基礎疾患である関節リウマチの治療方針については、感染リスクとのバランスが課題となっていた。
積極的治療による感染症リスクと、消極的治療による痛み・QOL低下のジレンマのなかで、家族がどこまで状況を理解し、方針を共有できているかが訪問診療導入の鍵であった。退院前カンファレンスにてこの点を確認し、当院からの訪問診療を導入する運びとなった。


介入内容と経過
整形外科クリニックでの関節リウマチの通院加療を継続しつつ、訪問診療では疼痛の緩和および全身状態のモニタリング、内服管理を実施。PSL(プレドニゾロン)とワントラムによる疼痛コントロールを行いながら、感染兆候や生活状況の確認を定期的に行っている。
介入開始から1年以上が経過し、途中入退院を挟みながらも現在も在宅療養を継続中。独居生活に対しても、家族のサポートと多職種連携により、安定した支援体制が維持されている。


医療対応の詳細
主病:慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、骨粗鬆症、胸腰椎圧迫骨折、脊椎側弯症、子宮脱
合併症:慢性疼痛、感染症反復歴
医療行為:膀胱留置カテーテル管理
薬剤:プレドニゾロン5mg、ワントラム等を訪問診療で処方継続
併診:リウマチ専門クリニックへの通院併用


支援のポイント

  • 治療方針の整理と家族の合意形成:リウマチ治療の程度に関するリスクとベネフィットを共有

  • 疼痛管理の徹底:副作用と感染リスクに留意しながら、可能な範囲でQOL向上を図る

  • 多職種の視点からのアセスメント:独居環境と通院可能性を踏まえた柔軟な支援体制の構築

  • 状況に応じた介入レベルの調整:入退院を挟みながらも、在宅での療養をベースに支援継続


考察
本症例は、慢性関節リウマチという進行性かつ治療判断の難しい疾患を背景に、在宅療養の可否を家族と共に丁寧に検討したうえで訪問診療に至ったものである。特に、感染症と疼痛管理のトレードオフに対して、本人・家族の理解と意向を軸に支援が進められた点が重要であった。
在宅療養を成り立たせるには、疾患の医学的マネジメントだけでなく、「どこまで治療するか」という問いに対する家族との合意形成が不可欠であることが再認識される症例である。