コラム2025/06/01
介護業界で急拡大中のスポットワークとは
人材不足が深刻化するなかで、介護現場に新たな働き方が浸透しつつあります。それが「スポットワーク(単発雇用)」です。飲食や物流業界で先行していたこの仕組みが、今や介護業界でも急速に広がりを見せています。今回は、スポットワークの最新動向から、現場での課題、導入のポイントまで、実践的な視点で掘り下げます。
拡大するスポットワーク市場──その現状と背景
スポットワークとは、「必要なときだけ働く」「その日限りの雇用」といった柔軟な就労形態を可能にする仕組みです。アプリを通じて、働き手と介護事業者が必要なタイミングでマッチングされ、面接なしで即勤務が決定するなど、スピード感のある仕組みが特長です。
実際にこの市場は急成長中です。例えば大手マッチングサービス「タイミー」では、2023年7月の上場時点で介護有資格者の登録者数が前年比1.7倍、2年前比で4.2倍の約28.5万人に到達したと発表されています。また、業界全体でも、国内スポットワーク登録者数は2200万人超に達し、その中には多数の介護職人材が含まれています(2023年5月末時点/スポットワーク協会調査)。
スポットワーク活用の魅力と仕組み
各仲介サービスは、事業者と求職者双方にとってミスマッチを防ぐ機能を整えています。主な機能を以下に整理します。
【スポットワークの代表的機能】
- ピンポイント人材の確保:経験や資格、勤務条件などを細かく設定可能。施設に必要なスキルを持つ人材を狙って採用できます。
- 相互評価制度:勤務終了後、事業者と働き手が互いに評価を実施。信頼できる人材を選別しやすくなります。
- 迷惑行為へのペナルティ:無断欠勤などを繰り返すと求職者の“信用スコア”が下がり、案件への応募がしづらくなる仕組み。
- 優良人材への優先オファー:評価の高い人材にはリピート依頼が可能。教育コストの低減にもつながります。
さらに、派遣と異なり時給や交通費の設定を事業者が自由に行えるほか、1時間単位で依頼が可能なため、人件費の最適化が実現しやすいという利点もあります。
スポットワーク導入の落とし穴──「受け入れ環境」の整備がカギ
しかしながら、スポットワークは魔法の解決策ではありません。導入にあたり最も重要なのは、「誰が来ても、同じ品質で仕事ができる環境」を現場側が整備できているかどうかです。
実際、スポットワーク求人を見ると、「介護業務全般」「入浴介助・食事介助・排泄介助…」といった漠然とした内容が多く見られます。これでは業務が属人化し、スポットワーカーが現場の一助になるどころか、混乱の要因となりかねません。
このような状態が続けば、仲介手数料の増加・スタッフの疲弊・ケアの質の低下など、さまざまな悪循環を生むリスクがあります。
解決の第一歩は「業務の切り出し」──タイムスタディの活用を
介護現場でスポットワークを効果的に機能させるために必要なのが、**業務の明確な分解=「業務の切り出し」**です。
国や自治体もタスクシフト/シェアの推進を進めていますが、実際に現場で成功している例はまだ限られています。
そこで注目されているのが、「タイムスタディ」という業務分析手法。これまでは専門職がストップウォッチで時間を測るような手間が必要でしたが、現在では専用アプリ(例:「ハカルト」など)を使い、誰でも簡単に業務時間と内容を可視化できるようになっています。
タイムスタディは、静的なマニュアルでは把握できない「現場の動き」「実際に使っている時間」を動的に捉えることができます。そこから業務を細分化し、スポットワーカーでも対応可能なタスクを抽出することで、属人化の回避と生産性の向上を両立することが可能になります。
真に選ばれる介護現場へ──“働きたい場所”になるために
「介護は専門職。単発労働者には任せられない」という思い込みも根強くありますが、それがすべてではありません。
大切なのは、現場の本質的課題と向き合い、業務設計と受け入れ体制を最適化すること。それによって、「働きたい」と思われる職場づくりが進み、結果として自然と人が集まる現場になります。
最終的に目指すのは、
- 利用者にとって質の高いケアが受けられる
- 職員にとって無理なく働きやすい
- 働き手にとって“また来たい”と思える現場
この三方良しのサイクルをつくり出すことです。
まとめ
スポットワークは、ただの“便利ツール”ではありません。活かすも殺すも、現場の「受け入れ力」次第。小さな工夫と改善の積み重ねこそが、次代の介護事業所の価値を創ります。ぜひこの機会に、貴事業所でも現場の棚卸しをしてみてはいかがでしょうか?