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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

知っておきたい!神経のしくみとケアに活かすヒント

コラム2025/05/15

知っておきたい!神経のしくみとケアに活かすヒント

「なんとなく元気がない」「反応が少し鈍い」——
そんな利用者さんの“ちょっとした変化”に気づけることは、介護・医療職としての大切な力です。実はその背景には、“神経の働き”が大きく関わっていることをご存じでしょうか?

今回は、末梢神経・ニューロン・シナプスといった神経系の基本構造を、ケアに活かせる視点でわかりやすくご紹介します。
「なぜこの動きができないのか」「なぜ反応が遅れるのか」——その“なぜ”を読み解くヒントになる内容です。

全身をつなぐ“情報ネットワーク”:末梢神経のしくみと役割

私たちの体には、「神経系」と呼ばれる情報伝達のネットワークが張り巡らされています。これは、体の内外からの刺激を受け取り、脳や脊髄(中枢)へ伝える、またはその逆に指令を各器官に届けるという、まさに“身体の司令網”のような仕組みです。

神経系は大きく以下の2つに分けられます:

  • 中枢神経系:脳と脊髄。情報処理と指令の中心。
  • 末梢神経系:全身に広がる神経。中枢と体の各部分をつなぎます。

特に末梢神経系は、**約1000億個の神経細胞(ニューロン)**が網目のように体中に広がり、筋肉・内臓・皮膚などとつながって私たちの活動を支えています。

さらに、末梢神経は以下のように機能が分かれています:

  • 体性神経:運動や感覚など、自分の意思で動かせる働き(例:手を動かす、熱さを感じる)
  • 自律神経:心拍・呼吸・消化など、無意識に調整される働き(例:ストレス時に心拍が上がる)

自律神経はさらに「交感神経」と「副交感神経」に分かれており、これらがバランスよく働くことで、私たちの体は環境の変化に柔軟に対応しています。

ニューロンとシナプス:情報を伝える精密な仕組み

「見る」「動く」「考える」——これらすべての行動の裏には、神経細胞(ニューロン)を介した精密な情報伝達があります。

たとえばキャッチボールの場面。
目でボールの動きを見て、脳が判断し、腕に「キャッチせよ」という指令を出して、実際に手が動きます。この一連のプロセスを担っているのがニューロンであり、それらのつなぎ目にあたるのが「シナプス」です。

ニューロンは、情報を受け取る「樹状突起」と、情報を送る「軸索(じくさく)」という構造を持ち、シナプスでつながってネットワークを形成しています。
このシナプスでは、神経伝達物質が放出されて、次のニューロンへと情報が伝わる仕組みになっています。

ポイントは、シナプスの働きが固定的ではないということ。
繰り返し情報がやりとりされることで、伝達の効率が変化する現象を「シナプス可塑性(かそせい)」と呼びます。これが記憶や学習の仕組みの基盤とされており、私たちが「慣れる」「覚える」ことができるのは、まさにこの変化のおかげなのです。

ケアの質を高めるために、神経系への理解を

神経系は、私たちの体のあらゆる働きを支える“情報インフラ”のような存在です。
その構造や役割を知ることで、利用者の行動や反応の背景をより深く理解することができます。

「この方は、なぜ食事のペースが遅いのだろう?」
「この動作に時間がかかるのは、どこに情報のズレがあるのか?」

そうした問いを持つことが、ケアの質を一歩深めるきっかけになります。
“神経のしくみ”という視点を、ぜひ日々の観察や支援に活かしてみてください。