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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

認知症の進行を緩やかにするための  現場でできるケアの基本と工夫

コラム2025/05/02

認知症の進行を緩やかにするための 現場でできるケアの基本と工夫

認知症は進行性の疾患であり、発症後にその経過を完全に止めることは困難です。しかし、日々のケアや生活環境の整え方によって、進行を穏やかにし、生活機能の維持を図ることは十分に可能です。

現場で関わる私たちが意識すべきなのは、単なるサポートにとどまらず、その人らしさを引き出すケアです。認知症の進行を緩やかにするために、日常の中で実践できる基本的な支援の視点と工夫を整理します。

脳への適度な刺激を継続する

認知機能を保つためには、脳に対する「過不足のない刺激」が欠かせません。

たとえば、昔の記憶をたどる回想法は、会話を通じて自然に記憶や感情を呼び起こすとともに、信頼関係の構築にもつながります。「若いころはどんなお仕事をされていたんですか?」「どんな遊びが好きでしたか?」といった問いかけを通して、脳の活性化と心理的安定の両方を促すことができます。

また、塗り絵・パズル・折り紙・料理・洗濯たたみなどの手指を使った活動も有効です。身体の動きと認知機能が連動することで、脳全体に刺激が伝わりやすくなります。

生活リズムを安定させる

認知症の進行を緩やかにするうえで、生活リズムの安定は極めて重要です。
起床・食事・排泄・就寝といった一日の流れを可能な限り規則正しく保つことで、体内時計(概日リズム)が整い、見当識の維持や情緒の安定につながります。

特に、朝の時間帯に自然光を浴びることは睡眠リズムの調整に効果的です。短時間の外出や日当たりの良い場所での活動を日課に取り入れることで、昼夜逆転や夜間の不穏を予防しやすくなります。

社会的つながりと役割を支える

社会との関わりが少なくなることは、認知症の進行要因の一つとされています。
一方で、他者との交流や役割のある生活が維持されている方は、認知機能・意欲・自尊心の低下が緩やかになる傾向があることが報告されています。

デイサービスや地域行事への参加、グループ活動などを通じて、対話・協働・達成感を得られる機会を設けることが大切です。また、配膳や洗濯物たたみ、植物の世話など、「誰かの役に立っている」ことを実感できる関わりも、自己肯定感を支える重要な要素です。

ケアの本質は「その人らしさ」と「できること」に向き合うこと

認知症ケアの本質は、「できないこと」に焦点を当てるのではなく、「いま、何ができるか」「何を大切にして生きてきたか」を見極め、その人らしい生活の継続を支援することにあります。

できることを無理なく続けられる環境を整えることで、本人の尊厳・主体性・安心感を守るケアが可能になります。これは、単なる援助ではなく、人生の物語を支える協働であるといえるでしょう。

まとめ

認知症の進行を緩やかにするために、私たち現場の支援者ができることは数多くあります。
脳への適切な刺激を届けること、生活リズムを安定させること、そして社会的なつながりや役割を支えること。この3つを意識した日常のケアは、症状の進行を遅らせるだけでなく、本人の生活の質(QOL)を守るうえでも重要な基盤となります。

そして何より大切なのは、「その人らしくあり続けること」を支える視点を持ち続けること。
私たちの関わりが、認知症とともに生きる方々の穏やかな暮らしを形づくる大きな力となります。