コラム2025/03/03
筋肉の基礎知識:種類・役割・加齢による変化
3つに分類される筋肉
筋肉は、人間の体を構成し、さまざまな器官を動かす働きをする重要な組織です。その構造は筋線維と呼ばれる細胞からなり、この細胞の数は生まれた時点ですでに決まっています。
「筋肉がつく」「筋肉が落ちる」という表現は、筋線維の数が変化することを意味しているのではなく、筋線維の1本1本が太くなる、あるいは細くなることで発生します。
筋線維は非常に細く、運動などの刺激で簡単に傷ついたり切れたりしますが、タンパク質などによって補修されます。この修復過程が繰り返されることで、筋線維が徐々に強くなり、「筋肉がつく」という状態になるのです。
筋肉は、構成する筋線維の種類によって、骨格筋、平滑筋、心筋の3つに分類されます。骨格筋は横紋筋とも呼ばれ、腹筋、背筋、腕や脚の筋肉を指します。平滑筋は血管の壁や内臓に存在し、血管を伸縮させたり、胃や腸などの内臓を動かす役割を担います。心筋は心臓を動かす筋肉で、私たちが生きている間ずっと動き続けています。この3種類の筋肉の中で、自分の意思で動かせるのは骨格筋だけです。平滑筋と心筋は不随意筋と呼ばれ、自分の意思では動かせません。
姿勢を保持し体を動かす
骨格筋はほとんどが骨に付着しており、体の姿勢を保つとともに関節を安定させる働きを持っています。また、筋肉を伸縮させることで骨格を動かす役割も果たします。骨格筋の両端は腱という線維性の組織で構成され、筋肉を骨に結びつけています。この腱の働きにより、筋肉が収縮すると片方の骨が支えとなり、もう一方の骨が動きます。
たとえば、腕を曲げる動作では、二の腕にある上腕二頭筋が収縮して橈骨を引っ張り、同時に上腕三頭筋が伸びることで動作が実現します。このように骨格筋は対になる筋肉と連動して働く特徴があります。
さらに筋肉には、血管を収縮させることで体温調節を行ったり、腓腹筋が収縮することで血液を押し上げて心臓に送り返す働きもあります。これに加え、筋肉が骨を刺激することで骨密度を増加させる役割も果たしています。
20代をピークに減少する筋肉
筋肉量は一般的に20代をピークに加齢とともに減少していきます。これにより、筋力が低下するだけでなく、柔軟性が失われ筋肉が硬くなるため、転倒や骨折のリスクが高まります。また、筋肉によって支えられていた関節も、筋肉量の減少に伴い変形が進みやすくなります。近年の研究では、筋肉の衰えと脳機能の低下との関連性も指摘されています。
筋肉量の減少は体の部位によって異なります。特に下肢の筋肉量は20代頃から顕著に減少し始め、上肢は高齢期にかけて緩やかに減少します。一方で体幹部の筋肉量は中年期頃まで緩やかに増加した後、減少へと転じます。このように、加齢による筋肉量の変化は部位ごとに異なり、最も減少率が大きいのが下肢で、その次に上肢、体幹部の順で減少することが医学的に確認されています。
筋線維の萎縮と細くなることが原因
加齢が進むと、筋肉を構成する筋線維が細くなるため、筋肉量が減少します。筋線維は運動によって傷ついた際、タンパク質の分解と合成により修復されます。この修復を繰り返すことで筋肉量を維持していますが、加齢に伴い修復機能が低下し、筋タンパクの分解が合成を上回るようになります。また、ホルモン分泌の減少や細胞死(アポトーシス)、ミトコンドリアの機能障害なども筋肉量の減少に影響します。
筋肉が萎縮することで筋力が低下するのに加え、高齢者は運動量が減る傾向にあるため、筋肉の衰えがさらに進みやすくなります。しかし、適切な運動を継続することで、高齢者でも筋力の維持や回復が可能です。運動は筋力を保つだけでなく、生活の質を向上させるためにも重要です。
まとめ
筋肉は、体を動かすだけでなく、姿勢を維持したり、血液循環や体温調節にも関与する重要な組織です。加齢に伴う筋肉量の減少は避けられませんが、適切な運動や栄養管理によってその進行を遅らせることが可能です。患者さんに対するアドバイスやサポートのためにも、筋肉の仕組みや加齢に伴う変化について正しく理解することが重要です。