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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

進行性核状性まひ(PSP):その特徴、原因、治療法について

コラム2024/12/24

進行性核状性まひ(PSP):その特徴、原因、治療法について

進行性核上性麻痺(PSP)は、主に脳内の大脳基底核、脳幹、小脳などに障害が生じることで、転びやすさやしゃべりにくさ、下のものを見づらいといった症状が現れる難病です。この疾患は、40代以降に発症することが多く、日本国内の有病率は人口10万人あたり10〜20人程度と推定されています。

原因と病態

 PSPの直接的な原因は未解明ですが、脳内の神経細胞が減少し、リン酸化タウタンパクという異常なタンパク質が蓄積することが知られています。この蓄積により、黒質や淡蒼球、ルイ体と呼ばれる重要な脳の部位に障害が生じます。結果として「神経原線維変化」と呼ばれる線維状の塊が神経細胞内に形成され、神経伝達が正常に行われなくなります。

 特徴的な症状

 PSPの初期症状として、転びやすさが挙げられます。これは、姿勢を保つための反射機能や注意力が低下するためです。また、垂直方向への眼球運動が難しくなるため、特に下方向の視界が悪化し、足元を確認しづらくなります。この視覚障害は、転倒をさらに助長します。

 加えて、パーキンソニズムと呼ばれる症状(筋固縮、運動の遅れ、姿勢保持障害)が見られますが、パーキンソン病とは異なり、後屈した姿勢が特徴です。また、構音障害による話しづらさ、嚥下機能の低下、無気力・無関心といった前頭葉機能の障害も進行性に現れます。病状が進むと、誤嚥性肺炎を繰り返すことが多く、生命に関わるリスクが高まります。

 診断と検査

 PSPの診断は、症状や臨床検査の結果をもとに行われます。特にパーキンソン病や線状黒質変性症、大脳皮質基底核変性症などの類似疾患との鑑別が重要です。

 MRIやCT検査では、脳の中脳や橋の萎縮、大脳の萎縮が確認されることがあり、これらの変化は「ハミングバードサイン」として知られています。また、レボドパという薬に対する反応が乏しい点も診断の手がかりになります。

 治療と生活の工夫

 現在のところ、PSPを根本的に治療する方法は確立されていません。そのため、治療は症状の緩和を目的とした支持療法が中心です。パーキンソン病の薬剤や抗うつ薬などが用いられることがありますが、その効果は限定的です。

 生活面では、転倒を防ぐための住環境の整備が重要です。例えば、床を滑りにくくする工夫や、つかまりやすい手すりの設置が推奨されます。また、嚥下機能が低下するため、食事形態や食器の変更、必要に応じた抗生物質の使用などが求められます。介護者との連携も不可欠で、患者が安全で快適に生活できる環境作りが大切です。

 まとめ

 進行性核上性麻痺は、転びやすさや視覚障害、嚥下機能の低下など、多様な症状を伴う難病です。根本的な治療法が存在しない中で、患者の生活の質を向上させるためには、適切な支持療法と生活環境の整備が不可欠です。この疾患への理解を深め、早期診断と適切な対応を進めることが、患者とその家族にとっての重要な課題となります。