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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

ケアラーとは?ヤングケアラー問題の現状と課題

コラム2024/12/16

ケアラーとは?ヤングケアラー問題の現状と課題

昨今、全国の教育機関や福祉分野、地方議会において、ヤングケアラーが抱える問題が活発に議論されています。政府も2022年6月に閣議決定された「骨太の方針2022」で、「ヤングケアラー」への支援を重要施策として位置づけました。具体的には、「こどもの成長環境にかかわらず、誰一人取り残さない」ことを目的に、児童虐待防止やヤングケアラー支援の推進、医療的ケア児への支援を行うとしています。

ケアラーという存在

「ケアラー」という言葉については、埼玉県が2020年3月に制定した「埼玉県ケアラー支援条例」が全国に先駆けた例です。この条例では「高齢者や障害者、病気の家族などに対し、無償で介護や看護、日常生活上の支援を行う者」をケアラーと定義しています。その中で、18歳未満のケアラーは「ヤングケアラー」とされています。ケアラーは高齢者のみに限らず、障害児や難病患者、高次脳機能障害者など、様々な支援対象者を抱える家庭で広く見られます。

埼玉県の調査では、ケアラーの性別は「男性」22.2%、「女性」76.9%であり、年代別では50歳以上が全体の約2/3を占めています。また、ケア内容としては「家事(買い物、食事の準備・片付け、掃除など)」が83.8%、「通院の付き添い」が79.0%、「書類手続きや連絡業務」が78.5%、「話し相手や見守り」が68.1%と、多岐にわたっています。

介護離職の背景と政策

「ケアラー」という言葉が注目されるようになった背景には、介護離職問題があります。2018年に閣議決定された「高齢社会対策大綱」では、「介護離職ゼロ」を掲げ、働きながら介護を続けやすい環境の整備を進めるとされています。この方針は安倍政権下の「ニッポン一億総活躍プラン」の一環であり、子育てや介護を担う人々が職場復帰しやすい仕組みづくりが重要視されました。

さらに、少子高齢化による労働力不足への懸念が、この政策を後押ししました。ケアラーが介護を理由に離職してしまうと、社会全体の生産性低下に直結するためです。こうした施策の結果、家族のケア負担を軽減する方向性は明示されましたが、現状では社会サービスが十分に機能していない地域も少なくありません。

ヤングケアラーの定義と実態

ヤングケアラーとは、内閣府が「本来大人が担うと想定される家事や家族の世話を日常的に行っている18歳未満の子ども」と定義しています。一方、一般社団法人日本ケアラー連盟では、「家事や家族の世話、介護、感情的な支援を行っている18歳未満の子ども」とし、その対象は障害や病気を持つ親や祖父母、きょうだいに及ぶとしています。また、大学生や20歳代を含む「若者ケアラー」も近しい課題を抱える層として位置づけられています。

ヤングケアラーの問題点は、単なる家庭の手伝いを超えて、学業や学校生活に支障をきたしていることです。特に学習機会の不足、友人関係の孤立、過度な負担による精神的なストレスなどが挙げられます。これらの影響が子どもの健全な成長を妨げ、成人後の生活に悪影響を及ぼすリスクも指摘されています。

実態調査から見る課題

国の「ヤングケアラーの実態調査」によると、家族の中で「きょうだい」を世話するケースが最も多く、次いで「父母」や「祖父母」が対象となっています。きょうだいの場合は、障害や病気を持つ子どもへの支援が中心であり、父母や祖父母では身体障害や認知症、要介護状態が支援対象の理由として挙げられています。

さらに、調査では「ひとり親家庭」におけるヤングケアラーの割合が2割を超え、家族構成の偏りが子どもの負担増加に繋がっていることが示されました。特に、介護保険や障害者福祉制度が十分機能していないケースが見受けられ、これが子どもの学校生活や学業に悪影響を及ぼしている現状が浮き彫りになっています。

ヤングケアラー問題の根幹

過去には、家族の世話や家事は「当たり前」とされていました。しかし、少子化や家庭環境の変化に伴い、ヤングケアラー問題が児童の権利侵害として捉えられるようになっています。特に、学習機会の欠如、友人関係の喪失、ストレスによる心身の負担は、社会全体で早急に解決すべき課題です。また、介護離職や社会サービスの不備など、大人を取り巻く問題もヤングケアラー問題の根幹に関わっています。

おわりに

ヤングケアラー問題は、児童福祉や社会サービスの在り方を問い直す重要なテーマです。子どもの権利を守り、すべての世代が安心して暮らせる社会の実現に向け、地域社会全体での支援が求められます。