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医療法人豊隆会ちくさ病院在宅医療

全ての困っている人が対象 有償ボランティア「キャンナス」

コラム2020/01/09

全ての困っている人が対象 有償ボランティア「キャンナス」

全ての困っている人が対象 有償ボランティア「キャンナス」

先日、米ハーバード大学医学大学院のHaider Warraich氏らの調査で、米国で20世紀初頭以来、初めて在宅で死を迎えた人の数が、病院で死を迎えた人の数をわずかに上回ったことが報告されました。(「New England Journal of Medicine」12月12日号)。Warraich氏によれば、このような変化には多くの人の「文化的な背景や経済状況にかかわらず、ほとんどの人は自宅で最期を迎えたい」という願望が反映されており、背景には患者中心の医療が尊重されてきているためと指摘しています。
しかし、在宅医療では、患者の家族や友人に大きな負担がかかることが従来から懸念されており、米国のみならず、日本においても解決しなければならない問題です。今回は、介護者の支援資源を拡充する取り組みとして、近年急増中の訪問ボランティア看護「キャンナス」について、ご紹介させていただきます。

キャンナスとは

https://nurse.jp/
「地域に住んでいる看護師が、忙しいご家族に代わって介護のお手伝いをする訪問ボランティアナースの会」です。1996年に看護師の資格を持つ菅原由美代表が「介護をしている家族を少しでも休ませてあげたい」と設立されました。“デキル(Can)ことをデキル範囲で行うナース(Nurse)”の意味から名づけられ、介護保険制度下では対応しきれない滞在型訪問介護のスタイルを貫いて、地域に根付いたボランティア団体として全国各地で活動している団体です。

キャンナス急増中?

1996年~2007年までの11年間で、横須賀、高知、松戸、釧路、北九州など20カ所で開設され、年間2カ所のペースでしたが、直近5年間では、60カ所も開設されています。つまり、直近は年間に平均12カ所という勢いで急増しており、2019年11月時点で全国に130カ所まで広がりみせています。

キャンナスとして活躍している方は?

立上げ当初は、いわゆる潜在ナース(妊娠や結婚、育児、パートナーの転勤などの理由による離職中)が多かったが、現在ではいろいろな立場の看護師が活躍されています。特に、訪問看護ステーションの看護師が「もっと利用者の暮らしの全体を支援したい」、「制度の枠組の訪問看護ではとても追いつかない。制度外の活動に走り出したい」という思いを募らせて旗揚げするケースが増えています。

キャンナスの利用料は?

活動の対価ではなく、あくまで心遣い・お礼として1時間1500円から3000円ほどかかります。一律ではなく、それぞれのキャンナスが決めています。介護保険の訪問看護サービスでは、1時間9000円前後ですから、大半が介護保険1割と考えると、キャンナスの利用料の方が高くなります。

キャンナスの対象者は?

高齢者や障害者、小児など年齢や属性も幅広く、キャンナスの支援対象はすべての困っている人が対象とされています。それを可能としているのは、制度に縛らないボランティアの位置づけによるところが大きいと思います。国や自治体の既存制度の枠組は、時間や人数など制約が多くあり、「想い」はあっても、制度の限界から支援の範囲をあきらめてしまう方も少なくありません。有償ボランティアだからこそ、幅広いサービス提供が可能となっています。

例1.難病の脊髄性筋萎縮症を患う小学6年生 車いす移動 

人工呼吸器公立小学校の課外活動で2泊3日の合宿先への見守りとして、移動や排せつの援助、着替えや歯磨き、洗顔などを手伝い。訪問看護ステーションの訪問看護師が日中は付き添い、夕方6時から朝9時まで、キャンナスの看護師が付き添った。2夜連続は難しいため、2日目の夜は別のキャンナスの看護師さんが付き添った。公立小学校の課外活動では、難病を抱える子どもや障害児にきちんと手が回らないのが現状だが、訪問看護ステーションと2つのキャンナスが連携し、「制度の隙間」を埋めることが可能となった。

例2.重度障害児の小学生

共働きの両親に代わり、重度障害児の小学生の通学に付き添う。自宅から少し離れた通りで迎えのバスを待つ。週3回午前学校まで送り、午後は帰宅する小学生を、別の小学校の学童クラブに送る。学童クラブの教室に入ると、水分補給のチューブで点滴をする。姿勢がズレて吐くことがないか、しっかり全身を観察。1時間半ほど一緒に過ごす。

例.3パーキンソン病 脳梗塞の後遺症あり、要介護5。夫と看護師の娘と3人暮らし。デイサービスに週4、リハビリの訪問看護を週1、訪問介護も利用、介護保険サービスをフルに活用

「夜寝るときに、側に誰かがいないと不安になる」と依頼され、着替えやおむつ交換、内服介助などに携わる。夜の8時半から10時までの1時間半、月に6回は赴く。活動費は1時間1600円。また、同じ方に、訪問看護ステーションの看護師として、週1回通い、ベッドから車いすへの移乗に手を貸し、夫が調理した昼食をとろみを加えて食べやすく工夫するなどのサービス提供をしている。つまり、訪問看護ステーションスタッフとして介護保険サービスを提供しながら、同じ利用者にキャンナス活動をしている。

まとめ

今回は、有償ボランティアとして拡大中の「キャンナス」ついて、ご紹介させていただきました。介護や医療、障害、子育てなどは、自宅で付き添う家族がいることで成り立っている現状を打開するうえでも、制度の隙間を埋める活動は非常に重要です。今後、制度外の拡大するニーズと運営主体の採算性を両立させ、継続可能なサービス体制を構築していくことがますます求められてくるでしょう。