コラム2019/10/15
緩和ケアについて学んでみよう!Vol.3
緩和ケアについて学んでみよう!Vol.3
今回のテーマは前回のVol.2に続き緩和ケアです。前回、緩和ケアに関わる「痛み」についてお話しました。今回は身体的苦痛に対しての薬物使用で重要となる考え方について解説します。
緩和ケアはいつから始めるの?
現在はがんに対する治療と並行して緩和ケアを行い、状況に応じて割合を変えていくことが一般的になってきました。以前は、がんに対する治療が終了するまで苦痛緩和治療は制限、治療終了後に緩和ケアを行うというものでした。現在の緩和ケアの目標は段階的になっています。
第一目標:夜間の睡眠の確保(痛みに妨げられずに夜は良眠できる状態)
第二目標:安静時の痛みの消失(日中に静かにしていると痛まないような状態)
第三目標:体動時の痛みの消失(歩いたり、体を動かしても痛くない状態)
最終目標:痛み消失の維持(痛みがなく、他の症状がなければ通常の社会生活可能な状態)
緩和ケアではどういう薬を使うの?
痛みの治療は薬物療法と非薬物療法の組み合わせが必要となりますが、鎮痛薬の使用が主役となります。WHO方式がん疼痛治療法における「鎮痛薬の使用法」は、治療にあたって守るべき「鎮痛薬使用の5原則」と、痛みの強さによる鎮痛薬の選択ならびに鎮痛薬の段階的な使用法を示した「三段階除痛ラダー」から成り立っています。なおWHO方式がん疼痛治療法とは、非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの使用に加え、鎮痛補助薬*、副作用対策、心理社会的支援などを包括的に用いた鎮痛法であり、薬物に抵抗性の痛みには、神経ブロックなどの薬物以外の鎮痛法を三段階除痛ラダーの適用と並行して検討すべきであるとしています。
*鎮痛補助薬とは
主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬、抗けいれん薬、NMDA受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択されます。
「鎮痛薬使用の5原則」とは
● 経口的に(by mouth)できる限り飲み薬で治療する。
他人の手を借りずに患者さん自身で服用できることから、可能な限り飲み薬で治療します。飲み薬を飲むことができなくなった場合には、坐剤や注射剤、あるいは貼付剤を使います。
● 時刻を決めて規則正しく(by the clock)刻を決めて規則正しく使う
痛みが出たときに鎮痛薬を使用するという方法では、いつまで経っても痛みから解放されることはできません。鎮痛薬の効果が切れる1時間前に次回分を服用するという「時刻を決めた規則正しい服用」が大切です。他の薬と一緒に、服用時刻が日によってバラバラな食後に服用してはいけません。必ず毎日決められた時間に服用しましょう。
● 除痛ラダーにそって効力の順に(by the ladder)痛みの強さに応じた効力の薬を使う
鎮痛薬の種類は病状の進み具合や末期か否かによって決めるものではありません。痛みの強さに応じて、どの鎮痛薬を使うのかを決めます。
● 患者ごとの個別的な量で(for the individual)痛みが消える量へと増やして使う
痛みが消えるまで、医療用麻薬の量を増やしていきます。アルコールに対して強い、弱い人がいるように、鎮痛のための医療用麻薬の十分量にも個人差があります。痛みが消える量が、その方の十分量なのです。これは「WHO方式がん疼痛治療法」の最も大切なことの一つです。
● その上で細かい配慮を(with attention to detail)以上をふまえ、細かな点に配慮する
どの鎮痛薬にも少なからず副作用が発現します。でも心配しないで下さい。あらかじめ副作用を打ち消すためのお薬を併用します。また、患者さんの悩みもそれぞれ違いますので、悩んでいることを医師や看護師、薬剤師につたえましょう。患者さんの介護にあたるご家族の方が、患者さんの悩みを積極的に聞いてみることも大切です。
「三段階除痛ラダー」とは?
痛みの強さに応じて、どの鎮痛薬を使うのかを決めますが、この時に使われる階段図で、世界共通のものです。
各薬剤については次回お話いたします。
まとめ
緩和ケアで使う鎮痛薬には世界的に決められた使い方があります。これらは、WHO方式がん疼痛治療法が公表されてから30年近く変わらずに言われていることであります。昔に決められたことであったり、新たに使えるようになった薬などもあるため、内容は今後も変わっていくことでしょう。